一晩で12台がパンク 英国で深刻化する「ポットホール問題」とは 直したくても直せないワケ

公開 : 2023.01.23 19:45

英国では近年、アスファルト舗装の道路の「ポットホール(穴、くぼみ)」が大きな問題となっています。タイヤのパンクやホイール損傷を招く危険なものですが、政府予算の削減により改善は厳しい状況です。

タイヤを次々とパンクさせる恐怖の「穴」

1月15日は、英国で「ナショナル・ポットホール・デー」と定められている。ポットホール(Pothole)とはアスファルト路面のくぼみや穴を指す言葉で、交通事故の原因となることから、英国では毎年この日になると啓発活動が行われている。

路面にポットホールができる主な要因として、車両通行(特に大型車)による損傷や排水不良、経年劣化などが挙げられる。このポットホールが原因と思われる自動車の故障が、英国で増加しているとの調査結果が発表された。

政府予算の削減により英国のポットホール問題はますます深刻化している。
政府予算の削減により英国のポットホール問題はますます深刻化している。

1月17日の夜、ロンドン南西部のサリー州ウォキングとギルフォードを結ぶ交通量の多い一般道B380にできたポットホールで、少なくとも12台の自動車がホイールやタイヤに損傷を受けた。

損傷を知った一部のドライバーは、現場から1.5kmほど離れたところにあるパブに退避し、タイヤ交換や救助を待った。このパブのオーナーであるナイジェル・マート氏によると、あるドライバーはタイヤ2本がパンクし、ホイールも破損した状態で店にやってきたという。

マート氏は、「先月末のある晩、ホイールを破損したドライバーが4人も来ました。今まで見た中では最多です。この先、もっと増えるでしょう」と語った。

もし、マート氏の言葉通りなら、同じポットホールの犠牲者ではないかもしれない。事件の2日後、AUTOCARが現地をチェックしたところ、幸いなことに、穴は自治体によって修理されていた。

RAC(王立自動車クラブ)の調査によると、同クラブのスタッフは昨年10月から12月末までの間に、ポットホール関連の被害で1日平均20台の車両故障に立ち会ったが、これは2019年以降の第4四半期に記録した中で最も多く、前の3か月に比べて23%増加したという。

RACは、冬の天候がポットホールの発生を早めているとし、春になれば道路はもっとひどい状態になると予測している。同クラブの道路政策担当者であるニコラス・ライズ氏は、次のように述べている。

「英国のドライバーたちは、現在の道路の劣悪な状態を、自動車運転における最大の不満の1つとして評価しています。2023年に政府がこの問題を解決するためのより良い方法を考え出すことを願うばかりです」

せっかくの助成金も取り崩し…… 政府対応は?

英国のポットホール問題は、道路整備にかかるコスト高騰により悪化の一途をたどっている。アスファルトの不足、資金削減、悪天候を受け、ポットホールは増え続けているのだ。

インフレと議会予算の圧迫により、各自治体は支出を引き締めており、道路整備予算は減少する見通しだ。最も危ぶまれるのは、2020年に政府が用意した25億ポンド(約4000億円)の予算である。年間5億ポンドずつ、5年にわたり、各自治体による道路の再舗装やポットホール修理、橋などの修復費用として支出するとされた。

インフレや情勢不安、政治的混乱などもポットホール増加の要因となっている。
インフレや情勢不安、政治的混乱などもポットホール増加の要因となっている。

政府は、この助成金は毎年1000万個のポットホール修理に十分であると言っているが、その使い道は、個々の自治体(カウンシル)に任されている。しかし、政府は昨年、この助成金を与えるやいなや、自治体の道路整備予算への拠出を4億8000万ポンド(約770億円)減らし、2022年分の助成金を事実上取り崩したのだ。

維持管理費の高騰(8月、自治体はポットホールの修理費が22%増加したと報告)、かつて主要供給国だったロシアが供給を禁じられたことによるアスファルトの価格上昇、自治体の支出削減と合わせて、英国の道路状況の見通しは暗いと言わざるを得ない。

サリー州で一晩に12台が損傷した事件は、今の英国を象徴する出来事と言えるだろう。

道路整備の改善を求める業界団体AIA(アスファルト産業連盟)によると、未処理分の道路補修が2021年より23%増加し、126億4000万ポンド(約2兆円)に達したという。その原因は、投資不足と長期計画の欠如にあるとしている。

AIAのリック・グリーン会長は、次のように述べている。

「継続的な投資不足と、道路の構造的な劣化との関連性は明らかです。安全で弾力性のある持続可能なネットワークを確保するためには、長期的なアプローチと大規模な投資が依然として必要です」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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