アウディRS5

公開 : 2012.12.18 19:13　　更新 : 2017.05.29 18:18

そんな風に、RS5はヤバくなったら踏めば曲がるクルマだ。タイヤが一杯一杯になったところで、普通とは逆に踏み込んでいって加速しながら動的安定を創るのである。これは、前でドリフトアウトが出たら、後ろをパワーオーバーで出すといったFRの対処法とは別次元のもの。それだと自転だけニュートラルに辻褄を合わせて公転はアンダーに陥ってしまうし、前に進むこともできない。RS5は車輛運動性においてそのずっと上空を行く。その空域は、2年前に公道上で分け入って覗いてみたが、今回は本格的に突入して様々なパターンでの機動を確認することができた。サーキットだから可能だったことである。

今回の仕様変更に関する改良点も見いだせた。初期型RS5の弱点はステアリングだった。BMWのそれと同じく操舵ギヤ比とアシスト量を可変させるそのシステムは、未だ生煮えで、切り始めようとするところと、切って舵角を決めようとしたところで、手に伝わる感触と前輪の横力ゲインの関係が混乱していた。そのステアフィールの不自然が、電動アシストの操舵系に変わったことで、幾分やわらいでいた。低速の軽負荷領域は試せなかったので注釈つきになるが、確かに改善方向にはある。また、アウディの4WDは、オーバー気味になってしまった姿勢に対処するときは、カウンターに至らない程度の修正舵を入れるのが正しいのだが、その修正をする際のステアリングの重さの制御がツボを得ていた。修正が要るところでは軽くなり、これ以上は切りすぎというところで重くなる。それはジオメトリで同じことを達成しているBMWなどとは違って、制御で人工的に作ったものだが、仕上がった結果は同じように運転操作を支援してくれて有用であった。

アウディはBMWよりもポルシェよりも、ずっとゲルマン的な積分回路のクルマ作りをする。その積分回路が作った最新作がRS5だ。ひとつの境地としてこれは認めなければならない。

(文・沢村慎太朗写真・花村英典)