【レーシングドライバー塚本ナナミのスーパー耐久参戦記】第6回:スタート5分前、雨が運んできた決断
公開 : 2026.11.07 07:05
レーシングドライバーの塚本ナナミ選手によるスーパー耐久参戦記です。2026年シーズンにフル参戦というチャレンジを、本人自ら語ります。約3ヵ月ぶりとなる第6回は、10月24、25日に岡山・国際サーキットで行われたレースについてです。
雨雲レーダーとにらめっこの週末
みなさん、こんにちは。塚本ナナミです。
今回の舞台は岡山国際サーキット。レースウィーク(レースが行われる週)を通して、とにかく天気に振り回された一戦になりました。

岡山の天気は週末ずっと不安定で、どのチームも毎日天気予報とにらめっこ。雨雲レーダーをいろいろなサイトで、いろいろな角度から見比べながら天候を読む光景が、パドック(チームの作業エリア)のあちこちで見られました。
みなさんは普段、晴れの日も雨の日も同じクルマ、同じタイヤで走られると思います。しかし私たちは、コンマ1秒を争う競技をしています。そのため、雨専用のセッティング(クルマの調整)と雨専用のタイヤが用意されていて、どのタイミングでそれを使うかが、レースの勝敗を大きく分けるのです。
今回は日本列島の近くを台風が通るため、雨は降るだろうと言われていました。ただ、いつ降るのかは予報が日ごとに揺れて、はっきりしませんでした。
実際には土曜日の夜に雨は降ったものの、日曜日の朝には一旦止み、雲も薄くなってきて、「あれ、これは持つ方向なのでは」という空気が流れていたのです。各チームは、晴れと雨の両方のパターンを準備してスタートに備えていました。
スタート前の作業は、スタート5分前までに終えなければなりません。しかしその締め切りまであと10分というところで、急に雨が降り始めたのです。レインタイヤに替えるのか、スリックタイヤ(溝のない晴れ用タイヤ)のまま行くのか。残り10分で、各チーム、各スタートドライバーが、それぞれ違う答えを出す瞬間でした。
レインタイヤはスタッドレスに似ている
ここで少し、レインタイヤの性格についてみなさんにお話しさせてください。
私たちが使うレインタイヤは、雨がたくさん降っている路面ではとてもよくグリップします(路面に食いつきます)。そのために、やわらかいコンパウンド(ゴムの配合)で作られているのです。

だから雨の中では非常に安心して走れるのですが、雨量が少し減って路面が乾き始めると、今度はトレッドのブロック(溝で区切られたゴムの山)が傷みやすくなり、タイムが急に大きく落ちることがあります。
これはレーシングタイヤではよくあることで、グリップの良さと引き換えの性質だと言えます。
みなさんの生活に置き換えるなら、スタッドレスタイヤを想像していただくと分かりやすいと思います。スタッドレスは雪の上ではとても安全に走れて、しっかり止まります。けれども雪が解けてアスファルトが顔を出し、乾いた路面を長く走り続けると、ブロックが飛んだり減りが早くなったりしますよね。
特殊な環境に合わせて作られたタイヤは、その環境から外れた途端に消耗が激しくなる。この点は、レースの世界も皆さんの日常もまったく同じなのです。
つまり、私たちにとって一番難しいのは『路面は濡れているけれど雨は止んでいる』、『雨が弱まって、これから乾いていく』という中途半端な状況です。
雨か晴れかではなく、その間の数十分をどう読むか。これから冬に向けてスタッドレスに履き替えるみなさんにも、この感覚はきっと身近なものだと思います。


