社会人1年目、ポルシェを買う。

2016.10.05

第34話:きみのスキルは30点。(峠編)

photo:高桑秀典 (Hidenori Takakuwa

 
エンジンを高回転域までまわすことにたいして
根拠のない抵抗が定着していたことを
笹本編集長から指摘されたあと、
意識的に3〜4000rpmまでまわして変速することで
これまであまり、まわりたがらなかったエンジンが
気のせいではなく軽やかにまわるようになっていった。

些細なことだが、これをよろこんでいたのもつかの間、
ジャパン・クラシック・ツアー2016’ の通過ルートの
伊吹山ドライブウェイでは
さらなる問題が浮き彫りになった。

それはぼくの峠道のスキルが
“30点どころか0点以下” ということだった。

本来ならば、伊吹山ドライブウェイは
標高1260m、全長17kmの最高のワインディングだ。
景色もいいし、空気もおいしい。
伊吹山ならではの固有種をたのしむこともできる。

けれど
「さて、お手並み拝見ですな」という編集長のひとことから
ヘンに緊張したうえ意気込んだ僕は、
まるでトンチンカンな運転をしたのだ。

(あぁここから先、書くのがいやだなぁ。)

そもそもの大きな勘違いは、
ちいさいころに何かの雑誌で読んだ
“ブレーキをぎりぎりまで遅らせる” ということばを
手放しに信じすぎている点だった。

そもそもスキルのないぼくが
“ブレーキをぎりぎりまで遅らせる” と
姿勢が整わないままコーナーに
文字どおり “突っこむ” ことになる。

突っこむと、
ノーズはコーナー内側をむかないどころか
コーナーの外側をむいたままの状態である。

だからハンドルを切っても切っても足りない。
切っても足りないということはつまり、
あとからあとから切りたす(操舵が遅れる)ことになる。

“やばい、回りきれないんじゃないか?” という心配が
コーナーの頂点をすぎるまで何度もしょうじる。

でも思い切ってハンドルを切るのが怖いから、
結局コーナーがおわるころのノーズは
脱出方向を向いてない(依然として外を向いている)。

つまりアクセルを踏める姿勢ではない。
アクセルを踏める姿勢ではないから脱出がおくれる。
(おくれるというか、ろくに脱出できない)

だいたい67個のコーナーのすべてがこうなった。
往復すると134ヶ所、懲りずにこれをやってのけた。

あげくの果てにはシフト・ダウンさえわすれ、
3速のまま、エンジン・ブレーキがかからずに
不気味なまでにふわぁっとコーナーに飛びこみ
ドッドッドッドッ……とエンストしそうになってはじめて
あわてて出口でシフト・ダウンして登っていくという
いま考えても手で顔を覆いたくなる事態も頻発した。

逆に下りではスピードがおちないから、
グリップ(だけ)にたよるドライブにもなっていた。

笹本編集長は、ふだんこのましくない状態になると
「ありゃりゃ」とか「どうすんだ」というのが口ぐせで、
もっとこのましくないと「ばかやろう!」とかいうのだけど
こっそりとパッセンジャー・シートに目を向けると、
もはや笹本編集長の顔に表情とよべるものがなかった。

134回目のコーナーを終えて
(ある意味で)超越したぼくのドライビング・スキルを
だまって見届けた笹本編集長は
ていねいにことば選んだ結果、
ひとことひとことを区切りながら静かにこういった。

「おはなしに、なりません」

これ以上(以下か……)のことばがあるだろうか。
かくして僕のスキルのなさは露呈した。

「いや、もちろんさ、峠以外の運転は、
 同年代よりもはるかにうまいとおもうよ?」
というフォローのことばが、逆にかなしい。
 
 
※今回も最後までご覧になってくださり、
 ありがとうございます。
 
 前回のおわりには笹本編集長に
 峠道でぼこぼこに怒られると書いたけれど、
 いざふり返ってみると、
 怒ってさえいなかったことが
 あらためて判明しました。

 さて、どうしたものか……。

 まずは楽しくてたまらなかった、
 ジャパン・クラシック・ツアー2016の写真を
 振り返って現実逃避しましょ。

 
 

こう見ると、ちゃんと走っているように見える。
写真のおかげ。
 

おみやげもたくさんいただきました。
 

この写真、僕と編集長の表情の違いに注目です。
 

前触れなしに
編集長が経営するホテルのチケットが景品の
じゃんけん大会のしきりに抜擢されました。
こういうのもふくめて楽しかったなぁ。
 

今後とも、[email protected] まで、
皆さまの声をお聞かせください。
もちろん、なんでもないメールだって
お待ちしております。

 
 

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