【現役デザイナーの眼:日産キックス】水平基調へと大きく方向転換 今の時代に求められるサイズ感のSUV

公開 : 2026.07.07 12:05

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎によるデザイン分析。今回取り上げるのはフルモデルチェンジを果たしたコンパクトSUV、新型『日産キックス』です。水平基調へと大きく方向転換をした、新型の意図を探ります。

車格を高く見せるデザインの工夫

日産キックス』がフルモデルチェンジしました。比較的コンパクトなボディサイズながら、大人4人がしっかり座れる優れたパッケージを備えたSUVです。今回のモデルチェンジでデザインも大きくイメージチェンジし、今、非常に注目度の高い1台となっています。

実車を見た第一印象は、『車格が随分高く見える』ということでした。ボディサイズは全長4365mm、全幅1800mm、全高1610mmと、旧型の4290mm、1760mm、1605mmよりやや大きくなっていますが、デザインによってそれ以上のサイズアップを感じさせます。

新旧サイドビュー。新型(下)は水平基調でフロントのボリュームが増し、よりSUVらしい強さが表現されました。とは言え、やや後ろ下がりにも見えるバランスになっています。
新旧サイドビュー。新型(下)は水平基調でフロントのボリュームが増し、よりSUVらしい強さが表現されました。とは言え、やや後ろ下がりにも見えるバランスになっています。    日産自動車

新旧をサイドビューで比較すると、その違いは一目瞭然。旧型は強いウエッジによって軽快感や躍動感を演出していましたが、新型は水平基調へと大きく方向転換しました。本格SUVらしい、落ち着きのある堂々とした印象です。

顔まわりは水平基調によりボリュームが増えているので、上級車種である日産エクストレイルにも引けを取らない存在感を獲得しました。このフロントデザインで特に秀逸だと感じたのは、グリルとランプを一体化してブラック部分を大胆に広げながらも、上品さを失っていない点です。

この様なデザインの場合、迫力重視になりがちですが、横方向に伸びるバーをシンプルにまとめることで都会的で洗練された印象に仕上げています。SUVらしい力強さとモダンさを両立させた、とても日産らしいデザインだなと思いました。

一方で、ひとつだけ気になる点もあります。それはサイドビューでやや後ろ下がりに見えることです。水平基調とはいえ、もう少しだけウエッジを効かせても良かったように感じますが、設計上の制約などがあったのかもしれません。

近年の日産車と異なるシンプルな基本立体

基本立体も新旧で大きく異なります。旧型は前後をしっかり絞り込み、大きなフェンダーを組み合わせることで凝縮感やスポーティさを表現していました。一方、新型は本格SUVの様な、できるだけシンプルな構成を採用しています。

近年の日産車はアリアリーフ、ノートのように、プランビュー(上面図)で大胆な動きを見せるデザインが数多く採用されてきました。しかし新型キックスは、プレーンなドア面に前後フェンダーを組み合わせた、オーセンティックな構成となっています。

SUVらしい強さとモダンさを両立させたフロントデザイン。サイドのキャラクターラインはフェンダーの峰でうねっており、シンプルながら力強いデザインになっています。
SUVらしい強さとモダンさを両立させたフロントデザイン。サイドのキャラクターラインはフェンダーの峰でうねっており、シンプルながら力強いデザインになっています。    日産自動車

とはいえ、ショルダー上面まで回り込むフェンダーは非常に力強く、その結果、キャラクターラインがプランビューでブリスター状にうねる造形が最大の見どころです。タンブル(正面から見た際のサイドガラスの傾き)も比較的立っており、SUVらしい力強い骨格を感じさせます。

ただ、サイドビューでのルーフラインが他の線に比べて丸いので、もう少しスクエアなシルエットだったらどう見えるかな? など想像したりしました。

リアまわりは、絞り込まれたキャビンと厚みのあるロアボディによって、非常に力強いプロポーションを実現。リアコンビランプとバンパーを繋ぎ一周するようなグラフィックも特徴的ですが、これもフロント同様、車幅を最大限強調するという明確な意図が感じられます。

特に大型車が多い北米市場では、このような手法によって実際のサイズ以上に大きく見せるデザインが数多く採用されていますよね。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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