クルマ漬けの毎日から

2025.12.24

クルマを通して見た「2025年」前編【クロプリー編集長コラム】

1月 ブルックランズの恒例イベント

ブルックランズ(世界初サーキットの跡地/イングランドのサリー州)で開催される恒例のニュー・イヤー・ミーティングは見逃せない(希望者は全員参加可能)。

強風と猛吹雪のために3日延期されての開催にもかかわらず、非常に大勢の人が集まった。たとえ氷と塩の路面状況であっても、熱心なクルマ好きは愛車を展示するのをいとわないことがよくわかった。

ブルックランズにはいつも、さまざまな人たちが集う。ヴィンテージカーでやって来た人たちの隣に、チョップトップのホットロッドの人たちがクルマを駐車して展示し、楽しそうに過ごしている。

ここへ来ると、私たちが多様な世界に住んでいることがよくわかる。もし無分別な政治家が私たちに悪影響をもたらせば、どれほど巨大なロビー団体が立ち上がることになるかも想像できる。

◆2月 春はもうすぐ
毎年2月にイギリス中部のストーンリー・パークで開催されている「レース・レトロ」というイベントに初めて出かけた。春のモータースポーツシーズンが近づいていることを感じさせてくれるイベント。

会場のホールとブースにはお宝がいっぱい並んでいたが、私と息子は足首まで入るほどぬかるんだ足場の悪いところで、このフォード・エスコートのようなクルマがサーキットを走るのを見たり(お金を払えば同乗走行も可能)、オークション会場へ行って、とても手が出せないような高値のエスコートを数台見て回ったりしていた。

だれもが暖かい春を心待ちにしている時期に開催されるこの楽しいイベントは、2026年も2月20~22日に開催される。

◆3月 モーガンの新トップ
伝統あるモーガンの本社(イングランド西部のマルヴァーン)を訪ねるのはいつも楽しい。ここは予想外に若いデザイナーとエンジニアが多い。

この日の目的は、新たなフラッグシップ「スーパースポーツ」の初公開を取材すること。だが多く取材陣にとって同様に重要だったのは、新たにMD(マネージング・ディレクター/社長)に就任したマシュー(=マット)・ホールの公式デビューだった。

ホールはモーガンの伝統を深く理解しており(彼はこの近くで生まれた)、またグローバルなハイテク企業のエンジニアとして成功した人でもある。ホールは「CEO」ではなく「MD」という肩書きを選んだ。

その理由は「MD」のほうが現場に近いイメージの肩書きで、会社の経営に直接関わることができると考えているから。この発想が彼の人柄を語っている。

◆4月 思い出のシトロエン2CV
1985年に私はシトロエン2CVを買ってターボチャージャーを取り付け、そのクルマを少し有名にした(「のろまなカタツムリをターボに」というタイトルの記事で)。この2CVの最高速度は89mph(約143km/h)となり、高速道路M4で中型セダンの営業車を運転する人たちを追い抜いて大いに悔しがらせた。

だがある日、サーキットでテスト走行を終えて帰宅する途中に出火。2CVは全焼してしまった。AUTOCARは修復を試みたが、2CVは原形を取り戻すことはできなかった。

その後、この2CVを買った人たちはレストアを計画していたが、実行されることはなかった。40年前のこの2CVを懐かしく思い出した私は、個人的にレストアを計画。しかし、このクルマが置かれている場所を訪ねた瞬間、夢は終わった。

◆5月 ルーバー大好き
懐かしさは人の心を動かす。ビスター・ヘリテージで見つけたこのモデルは、私がエンジンフードのルーバー好きになったきっかけとなったクルマ。

私の少年時代に行なわれていた最大のモータースポーツイベントは、レデックス・ラウンド・オーストラリア・トライアルという耐久レースだった(1955年/276台参加/20日間/走行距離1万500mile)。

このルノー4CVのようなクルマも(地上最低高が低く、加速も悪く、変なハンドリング、細いタイヤ)、無謀にも参加していた。当時こうした大規模な耐久レースがいくつか、オーストラリアの奥地にある私の故郷を通過していった。

そういうレースで、エンジンルームの熱を逃すルーバー付きのクルマを見て、なぜか私は無性にルーバーが好きになってしまったのだ。ルーバー愛はいまも続いている。

◆6月 ロータスのへセル訪問
ロータスのへセルへ行き、ブリティッシュ・モーターミュージアム(英国自動車博物館)の理事の1人として、特別な訪問を楽しんだ。ロータスがミュージアムの収蔵責任者のスティーブン・ラングに長期展示を提案しているコンセプトカーとプロトタイプの素晴らしいコレクションを、ラングと一緒に見学したのだ。

私たちはロータスのデザイン・ディレクターのラッセル・カーにも会い、彼がエヴァイヤの特別限定モデル(2000bhp)の出荷に向けて、取り組んでいる最中であることを知った。

これは決して容易な仕事ではない。

限定130台のパワフルな走りは、それぞれ重要な点で仕様が異なるからだ。この訪問後、これまで公開されたことのない珍しいロータスがブリティッシュ・ミュージアムに何台も到着し、展示されている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    役職:編集長
    50年にわたりクルマのテストと執筆に携わり、その半分以上の期間を、1895年創刊の世界最古の自動車専門誌AUTOCARの編集長として過ごしてきた。豪州でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、英国に移住してからもさまざまな媒体で活動。自身で創刊した自動車雑誌が出版社の目にとまり、AUTOCARと合流することに。コベントリー大学の客員教授や英国自動車博物館の理事も務める。クルマと自動車業界を愛してやまない。
  • 翻訳

    小島薫

    Kaoru Kojima

    ドイツ自動車メーカーの日本法人に在籍し、オーナーズマニュアルの制作を担当。その後フリーランスで翻訳をはじめる。クルマはハッチバックを10台以上乗り継ぎ、現在はクーペを楽しんでいる。趣味はピアノ。
 
 

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