12時間レースでクラス優勝を狙え! MGA ツインカム・ワークスマシン(1) エンジンも塗装も64年前のまま

公開 : 2024.05.25 17:45

1960年のセブリング12時間レースでクラス優勝を狙ったMGA ツインカム DOHC化で最高出力58%増し 6台作られたワークスマシン 宝石のようなレーシングカーを英編集部がご紹介

セブリングのクラス優勝を目指した大改良

今回お借りしたブリティッシュ・レーシンググリーンのMGAは、いつになく特別だ。1960年3月のアメリカ・フロリダ州で開かれた、セブリング12時間レースを4位でフィニッシュして以降、殆ど姿を変えていないのだから。

やや艶の薄れた塗装に、丸いスポットライト、ツインカムのエンジン、いまお尻に敷かれているシートまで、64年前にMGのワークショップを旅立った時のまま。ドライバーのジム・パーキンソン氏とジャック・フラハティ氏が見た姿と、殆ど違わない。

MGA ツインカム・ワークスマシン(1960年式/セブリング12時間レース仕様)
MGA ツインカム・ワークスマシン(1960年式/セブリング12時間レース仕様)

グレートブリテン島ではよくある土砂降りの中、130km先の目的地まで運転することが、うしろめたく感じても当然だろう。現在の走行距離は、1万kmを過ぎたばかり。1年間の平均では、160km弱しか走ってこなかった計算になる。

MGのワークス・レーシングカーとして誕生したこれは、飾られるために設計されたわけではない。1958年のAUTOCARを読み返すと、ベース車両になった量産仕様のMGA ツインカムですら、モータースポーツを嗜むドライバー向けだと記されている。

そのMGA ツインカムは、デザイナーのシド・エネバー氏によるスタイリングをまとって1955年に発売された、オリジナルのMGAと同じように見えた。しかし、1300-1600ccクラスの市販車レースで勝利するため、大幅な改良が施されていた。

DOHC化で最高出力58%増し 最高速度は183km/h

Bシリーズと呼ばれた直列4気筒エンジンは、シリンダーの内径(ボア)を73mmから75.4mmへ拡大。排気量が1489ccから1588ccへ増やされていた。後に、通常のMGAにも、1.6Lエンジンは積まれているが。

さらに、最大のアップデートといえたのが、アルミニウム製のダブル・オーバーヘッド・カムシャフト(DOHC)・ヘッドの採用。スチール製だったシングルカム・ヘッドからの、大きな進歩といえた。

MGA ツインカム・ワークスマシン(1960年式/セブリング12時間レース仕様)
MGA ツインカム・ワークスマシン(1960年式/セブリング12時間レース仕様)

ブレーキは、ダンロップ社製のディスクが標準。センターロックのノックオフ・スチールホイールも、始めから備わった。

MGは、1955年にBシリーズ・エンジンのツインカム仕様を実験。アイルランド島北東部のダンリッドで開かれた公道レース、RACツーリスト・トロフィーでは、流線型ボディをまとったマシンで、1956年と1957年にクラス最高速記録を塗り替えた。

1958年に発売された量産仕様のMGA ツインカムでは、コンロッドとピストンの形状を変更し、圧縮比を9.9:1へ上昇。だが、それ以外は通常のBシリーズのままだった。 

重さは23kgほど増えていたが、58%増しとなる109psの最高出力を、6700prmで発生。最大トルクは35%多い、14.3kg-m/4500rpmを得た。

当時のAUTOCARは、MGA ツインカムの動力性能をテスト。0-100km/h加速を、シングルカムのMGAから1.7秒短い13.3秒でこなし、145km/hへの加速では15.0秒速いことを確認した。最高速度も、22km/h上昇の183km/hに届いたようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェイソン・フォン

    Jayson Fong

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

MGA ツインカム・ワークスマシンの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事