「フラット8」をミドシップ! ポルシェ718 W-RS(1) ボクスターやケイマンのサブネームに

公開 : 2024.03.02 17:45

美しいボディに、フラット8をミドシップした718 356や550とは異なる新鮮な美しさ ニュル1000kmでクラス優勝を果たした1台を、英国編集部が振り返ります

ボクスターやケイマンのサブネームになった718

718 W-RSほど、謎めいたポルシェは存在しないかもしれない。革新的な設計が施され、モータースポーツで不足ない勝利を収め、現行のボクスターやケイマンのサブネームにも引用されている。しかし、自動車史のなかで過小評価されてきたことも事実だ。

ハードトップを背負った718 GTRというクーペも、2台が作られた。惜しいことに、これは現存していないのだが。

ポルシェ718 W-RS(1961年)
ポルシェ718 W-RS(1961年)

マニア以外に知られていない理由の1つは、開発された時期が関係しているように思う。1960年代初頭のポルシェは、モータースポーツで進むべき道に悩み、少し手を広げすぎた状態にあった。

F1参戦を目指し、相当な時間とコストが費やされていたものの、ポルシェを率いるフェリー・ポルシェ氏の姿勢は積極的とはいえなかった。他方、同じく競争の激しいスポーツカーレースで、強さを証明したいという意志が強く働いていた。

そんな状況で、1960年から1961年にかけてファクトリーチームによって生み出されたのが、1957年のポルシェ718をベースとした特別なマシン。僅か2台の718 GTRと、1台の718 W-RSだった。

この3台に搭載されたエンジンが、2.0L水平対抗4気筒の587ユニットと、F1用に開発された水平対向8気筒の804ユニットを融合させた、タイプ771ユニット。開発を率いたのは、腕利き技術者のエルンスト・フールマン氏だ。

356や550とは異なる新鮮な美しさ

F1用エンジンの改良版を718のシャシーへ積むことで、ポルシェの技術力は最大限に発揮されることになった。同時に、耐久レースを前提とした8気筒ユニットの開発は、シーズンでの総合優勝を目指すという、同社の野心を示すものでもあった。

相手にしたのは、フェラーリマセラティ。このプロジェクトを通じて、ポルシェのアプローチは変化していった。スタイリングにも、大きな進展をもたらした。

ポルシェ718 W-RS(1961年)
ポルシェ718 W-RS(1961年)

フェリーの長男で、実験的なF2マシン、シングルシーターの718 F2を設計したばかりだった若きブッツィー・ポルシェ氏は、自社のデザイン・スタジオで手腕を発揮。シュツットガルト・ツッフェンハウゼンで、新鮮な美しさを創出した。

ポルシェ356や550で見慣れていた丸みのあるラインは、低く伸びやかなシルエットへ一新。718 W-RSには、長く傾斜したフロントノーズと、ティアドロップ状のヘッドライト・カウルなどが与えられ、空力特性も強く意識されていた。

クーペの718 GTRでは、細く絞られたテールに、途中で切り落とされたルーフラインを採用。リアピラー部分には、大きなエアインテークが追加された。これらの特徴は、後のポルシェ904へ展開されていった。

スタイリングの好みは見る人によって様々だと思うが、筆者の目には、718 GTRよりW-RSの方が洗練され美しく映る。どちらも、ボディサイドでカーブを描くルーバーが目を引く要素といえる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ニール・ウィン

    Neil Winn

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ポルシェ718 W-RSの前後関係

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