自動運転車は社会的に弱い立場の人を助ける 実現には遠いが… 英国記者の視点

公開 : 2025.04.22 18:45

数多くの企業が開発を進める自動運転技術。実用化と普及はまだまだ遠い未来の話ですが、もし実現すれば、自分で運転できない人々の生活を一変させることになるかもしれません。AUTOCAR英国記者のコラムです。

地域の安価な移動手段に

日産は3月、8年間にわたる自動運転プロジェクト『EvolvAD』の最終段階である、英国での自動運転車の試験走行を終えた。

この試験は、自動運転のリーフが都市部以外の交通網の整備されていない住宅街や狭い1車線道路でも走行できるかどうかを検証し、このような複雑な環境での走行に必要な技術を探ることを目的としていた。

日産は英国の公道で自動運転リーフの試験を重ねてきた。
日産は英国の公道で自動運転リーフの試験を重ねてきた。    日産

日産は、試験は「大成功」だったと発表しているが、まだ近所の道路を自動運転車が走っている様子は見られないだろう。8年間で、自動運転のリーフは英国のあらゆる種類の道路を2万5000km走行した。それほど距離は多くない印象を受けるかもしれない。

つまるところ、自動運転車はまだまだ未来の話だ。実現可能かどうか、そして本当に普及するかどうかさえも不透明だ。運転支援技術を搭載したクルマを運転したことがある人なら、その未熟さをよくご存じだろう。

だが、しかし。なぜ自動運転車の実現を目指すのか、再認識させるために、日産は93歳の男性をこのクルマに乗せ、その性能を実証した。

自動運転技術は、通勤の負担を軽減してくれるだけではない。もっと重要なのは、自分で運転できない人々の移動手段を確保できるということだ。

クルマを運転できなくなると、移動のための費用が非常に高くなる。その理由は、商業輸送において最も費用負担の大きい部分がドライバーの雇用だからだ。筆者が住む地域(英国)には、運行時間が限られ、自治体から補助を受けているバスサービスがある。

したがって、例えば自動運転技術を搭載した車両に30万ポンド(約5600万円)の費用がかかったとしても、車両が常時運行し、複数のドライバーの仕事を代替できるのであれば、すぐに元が取れるだろう。

自動運転車の普及は、プロのドライバーにとって悪いニュースだ。しかし、移動手段が必要な人、運転できない人、バスに乗れない人、タクシーを利用できない人にとっては、愛する自宅や地域に残れるか、尊厳の欠ける施設に強制的に移されるかの違いを生む可能性がある。

人々の自立を助けることができるかもしれない。だからこそ、実現できるかどうかを見極める価値があるのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    役職:編集委員
    新型車を世界で最初に試乗するジャーナリストの1人。AUTOCARの主要な特集記事のライターであり、YouTubeチャンネルのメインパーソナリティでもある。1997年よりクルマに関する執筆や講演活動を行っており、自動車専門メディアの編集者を経て2005年にAUTOCARに移籍。あらゆる時代のクルマやエンジニアリングに関心を持ち、レーシングライセンスと、故障したクラシックカーやバイクをいくつか所有している。これまで運転した中で最高のクルマは、2009年式のフォード・フィエスタ・ゼテックS。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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