電動化前夜に、アルピーヌA110でアルプスを走る【日本版編集長コラム#58】

公開 : 2025.11.30 12:05

AUTOCAR JAPAN編集長ヒライによる、『日本版編集長コラム』です。最近乗ったクルマの話、取材を通じて思ったことなどを、わりとストレートに語ります。第58回は日本でも受注終了日が発表された『アルピーヌA110』の話です。

ディエップ産ピュアスポーツカーが迎えた転換期

アルピーヌA110との別れは、刻一刻と近づいている。

UK編集部が何度か報じているように、来年にはBEVとなる新型A110のデビューが控えていて、既にティザーも始まっている。だから正確には別れではない。どうしても重くなるBEVで軽量さを謳っている、新型の手法にも興味がある。

アルピーヌA110全モデルが乗れる試乗会に参加。写真は標準モデル。
アルピーヌA110全モデルが乗れる試乗会に参加。写真は標準モデル。    平井大介

しかし2017年に誕生した、ガソリンエンジンを搭載するディエップ産ピュアスポーツカーの時代が、ひとつの転換期を迎えていることは確かだ。

以前にも当コラムで記したが、アルピーヌが誕生した聖地であり、現在も生産工場が稼働するフランス北部の小さな港町、ディエップの取材経験もある筆者は、デビュー前から取材対象としてA110を追いかけてきた。

ハイスペックを求めず、軽さとバランスを信条としてきたその成り立ちは、スポーツカーのお手本のようなクルマだったと思う。それは往年のクラシックA110も有していた、アルピーヌのDNAだ。

だから今回、長野県の車山高原で現行A110を一気に乗れる試乗会があると聞き、ふたつ返事で参加を申し込んだ。試乗した順に書くと、標準モデル『A110』、モアスポーティモデル『A110GTS』、さらに軽量化&エアロパーツ装着などを施した本格スポーツモデル『A110R70』の3台となる。

11月27日にニュースが解禁されたように、取材当日、日本での受注が3月31日で終了することを聞いた。しかも来年6月に生産を終えるため、生産枠の上限に達すればもっと早く受注終了となる可能性もあるという。

つまり今回のような試乗は、恐らく最後になると思われるのだ。

身のこなしは相変わらず絶妙な軽さ

最初に乗った『A110』のスペックシートには、『ザ・オリジナル・スリル』というキャッチコピーが書かれていた。スリルという言葉は危険な香りをイメージさせるが、ヒリヒリするような危うさというよりは、ワクワクするような高揚感を表しているのだろう。

クラシックA110よりはもちろん大きいものの、全長4205mm、全幅1800mm、全高1250mm、ホイールベース2420mmのボディサイズはコンパクトで、車重は1120kgしかないから、身のこなしは相変わらず絶妙な軽さだ。

試乗会中の1枚。奥には冠雪した日本アルプスの山々が見える。
試乗会中の1枚。奥には冠雪した日本アルプスの山々が見える。    平井大介

1798ccの直列4気筒ターボは252ps/32.6kg-mというスペックで、ヒュンヒュンとタービンの音が聞こえてくるのは、ターボ好きの筆者が大好きな部分。パドルシフトを駆使してデュアルクラッチの7速ATを変速させながら、A110は峠道をテンポよく駆け抜けていく。

……楽しい!!!!!!!!!

走れば走るほど、A110はこういうワインディングロードを走るために生まれてきたクルマなんだなぁと、改めて感じさせてくれる。とにかく運転することが気持ちいいのだ。そして視線の遠い先に冠雪した山々が見えてくれば、気分はどんどん高まっていく。

そう、日本アルプスだ。

今回、現地に来るまで試乗会がなぜ車山高原で開催されるのかがわからなかった。しかし、その会場を設定した理由がこのロケーションにあることを知り、納得した。言うまでもなく、『アルピーヌ』の名前はアルプス山脈に由来するからだ。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影 / 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

日本版編集長コラムの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事