アウディA1 1.0TFSI

公開 : 2015.06.10 23:55  更新 : 2022.12.12 21:30

  • ヘッドライトはクルマの目である。A1前期型は歌舞伎のくまどりのようなラインをLEDで描いていて、コケティッシュな魅力があったけれど、新型は水晶のような輝きを放つのみで、擬人化とは無縁の冷たい美を感じさせる。クール・ビューティ。

  • アウディ初の3気筒エンジンを搭載。エンジンルーム内はご覧のように余裕がある。運転してみると実に鼻先が軽い。

■どんな感じ?

それはもう、軽くなった。重いコートを脱いで、いきなりランニングシャツになった感じ。車重は80kgも軽減しているという。1気筒カットされた分、アイドリングからスタート直後までのエンジンの音質は、なんというか、庶民的になった。日本国民の耳には軽自動車でおなじみの、ハチが複数飛んでいるようなサウンドを発する。ところが、このエンジン、6000rpmまでじつにスムーズに回る。回転が上がるにつれ、ハチたちのバランスがそろってきてハーモニーを奏で出す。

車両重量は1120kgある。マツダデミオより100kg重い。その分、というべきか、ボディは堅牢感にあふれている。カチンコチンである。スタート直後はさほど速い感じがしないのは、ターボ・エンジンだし、絶対的な車重がそれなりにあるからだろうけれど、にもかかわらず「軽いな〜」と思わせる。新しい電動パワー・ステアリングが羽のように軽いからだ。軽いけれどステアリングとタイヤとが緊密につながっていて、正確に操舵している感がある。

乗り心地も軽やかで、路面の凹凸を足回りがウニウニ動いてボディをフラットに保つ。バネは硬めで、深々としたストローク感があるわけではない。185/60R15と、最近珍しい扁平率60のコンチ・エコ・コンタクトのゴムが初期の当たりを受け止めて、軽くいなす。次々とやってくる路面の凸凹をちぎっては投げ、ちぎっては投げで、次々といなす。根本には鍛えられた体幹がある。体幹は微動だにせず、清々しい思いがする乗り心地である。

95psの小型車で長尾峠から、箱根スカイライン、芦ノ湖スカイラインに至る山道は、じつに楽しい。よく曲がる。短めのホイールベースとワイドなトレッドの縦横比がよいのだろう。ご存知の方はご存知のようにホイールベースはVWポロと同じだけれど、トレッドはわずかに広がっている。着座位置はそうとう低い。おのずと重心も低い。それとパワステの設定等で、曲がることを厭わない、どころか大好きな性格に仕立ててある。大きなバッテリーがリアの荷室の下に積んであるのは前後重量配分へのこだわりだろう。

ロールはごく穏やかなので、安心してコーナーに入っていける。速度そのものがたいしたことがない、ということはある。手のうちにおさまる能力を目一杯、意のままに操る。アクセルをただ全開にする。そのことにカタルシスがある。

記事に関わった人々

  • 今尾直樹

    Naoki Imao

    1960年岐阜県生まれ。幼少時、ウチにあったダイハツ・ミゼットのキャビンの真ん中、エンジンの上に跨って乗るのが好きだった。通った小学校の校長室には織田信長の肖像画が飾ってあった。信長はカッコいいと思った。小学5年生の秋の社会見学でトヨタの工場に行って、トヨタ車がいっぱい載っている下敷きをもらってうれしかった。工場のなかはガッチャンガッチャン、騒音と金属の匂いに満ちていて、自動車絶望工場だとは思わなかったけれど、たいへんだなぁ、とは思った。

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