【現役デザイナーの眼:フェラーリ・ルーチェ】初のEVは賛否両論 合理的に成立も希薄なパッションや官能性
公開 : 2026.05.30 12:05
現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎によるデザイン分析。今回取り上げるのは以前インテリアを解説し、ついにエクステリアが発表された『フェラーリ・ルーチェ』です。賛否両論に対する専門家の視点は?
単純に『カッコいい、悪い』ではない
フェラーリ初のEVとして注目を集める『フェラーリ・ルーチェ』。デザインを手がけたのは、元アップルのジョニー・アイヴとマーク・ニューソンによるユニット『LoveFrom』であることでも話題となりました。
先行公開されていたインテリアは、従来のクルマにはないミニマルかつ高品質な世界観が高く評価されていましたが、今回ついにエクステリアも公開。しかし、そのデザインには賛否が大きく分かれています。

その理由は、単純な『カッコいい、カッコ悪い』という話だけでなく、フェラーリというブランドに対する人々の期待値が大きく関係しているからでしょう。
快適性と空力を優先した新しいパッケージ
フェラーリ・ルーチェは、全長5026mm、全幅1999mm、全高1544mmという大型なボディを持っています。特に特徴的なのは1544mmという全高で、フェラーリとしてはSUVであるプロサングエ(1589mm)に次いで、かなり背の高いパッケージなんですね。
サイドビューを見ると、フロントタイヤ直上からキャビンが始まり、大きな弧を描きながらリアへと流れていくややワンモーション的なフォルムが分かります。EVらしい長めのホイールベース(2961mm)と組み合わさり、フェラーリとしては異例の長いキャビン空間を形成。

つまりルーチェは、従来のスポーツカー的な『低くコンパクトなキャビン』ではなく、『快適な5シーターサルーンとしての居住性』を優先したクルマなのです。
さらに特徴的なのが空力処理です。フロントのグリル部分から空気が貫通する構造となっており、そのままフロントガラスへとスムーズに繋がっています。また、リアも同様にボディがフローティングする構成となっており、空気を積極的に制御しようとする意図が見て取れます。
これはまさにEV時代らしいデザインであり、『形態は機能に従う』というプロダクトデザイン的な思想が強く感じられます。各エレメント単体を見ると非常に先進的で、デザインテーマも分かりやすい。少なくとも、フェラーリがこれまでとは違う方向へ踏み出そうとしていることは伝わってくるのです。
『スポーツカー』を名乗る違和感
一方で多くの人が違和感を覚えているのも事実ですが、その最大の理由は『表現したかったデザイン』と『与えられたパッケージ』との不整合があるように思えます。
フェラーリ自身がこのクルマを『スポーツカー』と名乗っているので、それを踏まえてお話ししますが、パッケージとしては完全にサルーン的なものなんです。

カーデザインにおいて最も難しいのは、決められたパッケージの中で理想のイメージを成立させることだと思います。特にルーチェのように全高1500mmをゆうに超えるパッケージをスポーツカー的に見せるのは極めて難易度が高い作業ですが、実際カーデザイナーはそのような仕事を求められることが多いです。
その点においてルーチェのデザインは低く見せるような工夫が少なく、ただシンプルさを求めたように思います。また、グリルからフロントガラスまでシームレスに繋がったデザインも逆効果で、更なるキャビンの大きさ感に繋がっている印象があります。




















































