英国史上最高のドライバー、スターリング・モスの軌跡たどる マセラティとともに

公開 : 2018.07.01 12:10

最終目的地 グッドウッド

最後の目的地はほかでもない、モスとは切っても切れない場所、グッドウッドだ。ここでのはじめてのレース―彼自身の3戦目にすぎない―が、彼のスタイルを決定づけた。くじ引きできまったかなり後方からのスタートで、しかもたった3周のレースにもかかわらず、500ccのクーパーに乗るモスは半周以上の差をつけて勝ったのだ。

ご承知のように、ここでは最後となる1962年にセント・メアリーズのバンクでの大事故で瀕死の重傷をおった。1カ月間の昏睡に陥り、半年間は半身の麻痺がのこった。だが、ある意味それが命を守ってくれたと彼はわたしに漏らしたことがある。

レースの危険性が高まっていく時代のことだ。もしこの事故がなかったとしても、選手生命として思いえがいた1970年代中盤までモスが生きのびられる可能性は、非常に低かったかもしれない。

モスはこのサセックス州の比類ないサーキットで何度も勝ちをものにしたが、いちばんの名レースを選ぶとなると難しい。クルマのラジオでレースの解説を聴いて、フェラーリ250SWBを天真爛漫に操った1961年のRACツーリスト・トロフィーにしようかとも思ったが、やっぱり1959年のほうにしたい(彼は1958年から61年まで4連勝している)。

アストン マーティンDBR1に乗るモスは独走態勢にあったが(なんの不思議もない。もしモスがグッドウッドで速く信頼性のあるマシンに乗ったら、ほかのレーサーは2位をめざすしかない)、ピットで給油中にマシンが火を噴いた。ピットも火につつまれ、モスのレースはここで終わったかと思われた。

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