【世界最古のV8ユニットに幕】 ベントレー・ミュルザンヌに積まれた名エンジン 前編

公開 : 2020.10.17 07:20  更新 : 2020.12.08 08:38

フルスロットルで500時間

一方で1953年、ロールス・ロイス・カーズのチーフエンジニア、ハリー・グリルスは設計者のジャック・フィリップスに新ユニットの設計を指示。シルバークラウドとSタイプのエンジンルームに収める必要があった。

滑らかさは失わず、重量は増やさず、50%のパワーアップを目指した。AEDのV8エンジンに対する素案は、グリルスには知らされていなかった。しかし、自然と要件は近似していった。

ベントレーS2(1959年)
ベントレーS2(1959年)

シリコン含有の高い合金を用い、航空機エンジンに準じる高精度で設計。シリンダーはオーバースクエア形状で、ウェット・ライナーを備えていた。ギア駆動のカムシャフトも、洗練されたものだった。

堅牢なブロックを採用し、フルスロットルで500時間の稼働にも耐えた。開発では、アメリカ製のV8エンジンも比較として実験に登用。フルスロットルでは100時間ほどしか保たなかったという。

一部では、Lシリーズはデトロイト製エンジンのコピーだと勘違いされているが、おそらくアメリカ製の油圧タペットを当初用いていたためだろう。事実、ボアの間隔やポート、点火順序などはまったく異なる。

初期のユニットは半球型の燃焼室を採用し、1年半後に試作に至った。V8エンジンは、1955年のシルバークラウド・プロトタイプへ搭載。ヘッドが大きく、ステアリング系の位置を設計し直したものの、空間に余裕はなかった。

直6よりコンパクトで軽量なV8エンジン

そこでヘッド周りを再設計。バルブを直列に並べ、プラグは外側に移された。そのため、シルバークラウドIIやIIIでは、プラグ交換でフロントタイヤを外す必要がある。

ついに長寿命となるLシリーズ、新しいV型8気筒が完成。排気量は6230ccで、古い直列6気筒より27%も増やされつつ、大きさは幅は広いものの全長は短い。それでいて、エンジンの重さは4.5kgほど軽く仕上がった。

ベントレーS2(1959年)
ベントレーS2(1959年)

SU製のHD6キャブレターを2基搭載し、最高出力は200ps以上と推定された。しかし実際は、非公表ながら187psだったという。

初期型Lシリーズ・エンジンは、シルバークラウドIIとS2向けに6046基を製造。ファントムVリムジン用としても、832基が組まれている。すべてのエンジンは、ピムズレーン工場で試験を受けた。100基当たり1基は、100時間のフルスロットル試験に挑んだ。

その後、新しいロールス・ロイス・シルバーシャドウとベントレーT1に搭載されるLシリーズでは、付随部品の設計を見直し、高さを削減。ヘッドは再設計を受け、大きな吸気ポートと高さの低い燃焼室に変更した。最高出力は202psへ高められている。

1971年、Lシリーズの排気量はは6750ccへ拡大する。6.9Lや7.2Lなど、さらなる大排気量化も検討されたが、1970年代半ばには環境意識が変化。キャディラックなどは排気量を小さくする流れにあり、実現していない。

一方で、5.3Lに燃料インジェクションを組み合わせたL380は、量産の準備が進められた。

この続きは後編で。

関連テーマ

おすすめ記事

 

ベントレーの人気画像