【世界最古のV8ユニットに幕】 ベントレー・ミュルザンヌに積まれた名エンジン 後編

公開 : 2020.10.17 16:50  更新 : 2020.12.08 08:38

巨大なクルマが信じられないほど速く走る

ベントレーアルナージRとT向けに、生き残ったLシリーズは大幅な改良を受ける。アルナージTは、2007年に世界最速の4ドアサルーンとして登場。ツインターボ化され、507psを絞り出した。燃費の向上も図られている。

2008年になり、ブルックランズ・クーペに537ps仕様が登場。少量生産のフラッグシップ・モデルとなった。当時の量産車用ガソリンエンジンとして、最も大きな最大トルクを得ていた。

ベントレーS2/ベントレー・ミュルザンヌ
ベントレーS2/ベントレー・ミュルザンヌ

最新のベントレー・ミュルザンヌでは、Lシリーズは標準でも507psを発揮。ミュルザンヌ・スピードでは537psに設定。289km/hで走る、成功者のための移動オフィスだ。

現代のミュルザンヌは、21世紀の超豪華なサルーンにふさわしくハンサム。ビリオネアやビジネス界の成功者を、感動させるだけのことはある。

インテリアは、隅々まで完璧に仕立てられている。オーナーが満足できる装備へ、カスタマイズも可能。

フカフカのクッションや、足元の照明、精巧な寄木細工も用意できる。23万9000ポンド(3250万円)のリムジンに完璧な木目が欲しければ、高解像度画像を見ながら選べる。

アルミニウム製のボディに、V8エンジンと8速ATが組み合わされ、最高速度は305km/h。車重は2685kgもあるが、テスラ並みの静寂性と、目がくらむほどの加速を実現している。

巨大なクルマが、信じられないほど速く走る。長距離を短時間でこなし、WiFiとインフォテインメント・システム、空調の効いた空間で、乗員を快適に運んでくれる。

現行のミュルザンヌは、1959年にベントレーS2が生産されていた時代とは異なる世界に生まれた。同じ心臓を受け継いで。

奥行きの深いLシリーズ・ユニット

1959年、600ポンドのファミリーカーと、5000ポンドのベントレーの違いは、極めて大きかった。2020年の今なら、手頃なクルマでも不足なく速く、安全で、良く走る。必要なら大きなボディも、沢山のガジェット類も装備できる。

ベントレー・ミュルザンヌと並ぶと、ベントレーSタイプはエレガントで上品な存在感がある。当時の人間的なスケール感で構築されている。傲慢さではなく、善意ある貴族としての佇まいを示すかのように。

ベントレーS2/ベントレー・ミュルザンヌ
ベントレーS2/ベントレー・ミュルザンヌ

近代化の入り口として、パワーウィンドウが付いている。インテリアには心地良い香りが漂い、アームチェアが迎えてくれる。

Sタイプも、速く静かなクルマだった。長距離を最小限の労力で移動できた。しかし、現代のミュルザンヌとの比較は、見当違いに思える。

この2台が並んだのだから、長寿なエンジンを祝福しよう。プラスティック製のカバーで、すっかり見た目は違ってしまった。光沢のあるエナメル仕上げは、6気筒のさらに前身の、ロールス・ロイス マーリンV型12気筒ともイメージが重なる。

おそらく1959年と共通する部品は、ワッシャーの1枚もないだろう。開発の継続性にこそ重要な意味があったと思う。

2020年版のミュルザンヌに積まれるLシリーズ・ユニットは、当初より200%以上も最高出力が高い。しかしロールス・ロイスの技術者、ハリー・グリルスが指定したものと同じベアリングの表面面積が支えている。

1959年より、1000倍も厳しい環境規制にも適合した。Lシリーズの奥行きの深さを、感じずにはいられない。

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