広大な砂漠をEVで横断してみた 食用油で急速充電 オーストラリア・アウトバック攻略

公開 : 2022.04.16 06:05

オーストラリア内陸部の砂漠地帯には、文字通り何もありません。しかし、意外にもEVインフラは整っています。

何もない砂漠地帯をEVで走る

南オーストラリア州と西オーストラリア州にまたがるナラボー平野の真ん中、ロードハウス(サービスエリア)のあるカイグナ地区をEVで通り過ぎるまで、平均2か月半もの時間を要する。

ナラボーは、「人里離れた場所」という言葉がぴったりのエリアだ。1979年にNASAの宇宙ステーション「スカイラブ」が地球に落下したとき、ここに散らばった破片は何にも当たらず、誰にもぶつからなかったのだ。

アウトバックと呼ばれるオーストラリア内陸部の乾燥地帯を走るポールスター2
アウトバックと呼ばれるオーストラリア内陸部の乾燥地帯を走るポールスター2

ナラボー(Nullarbor)には何もない。木と呼べるものさえない。それが名前の由来だ。しかし、グレートオーストラリア湾に面するこの乾燥した砂漠地帯(アウトバックと呼ばれる)には、オーストラリア西部とその他の地域を結ぶ大動脈、エアー・ハイウェイが走っているのである。

80年前、戦争のために軍隊と装備を西へ運ぶために道が敷設される前は、ラクダと馬がこの厳しい地域を繋いでいた。

カイグナのロードハウスでは、液体燃料と揚げ物しか販売されていない。ガソリンやディーゼルのクルマならそれでいい。しかし、EVでここを通ろうとする勇敢な者たちはこれまで、キャンプ場の電源にプラグを差し込み、バッテリーが補充されるまで長い時間待たなければならなかった。

西オーストラリアのEVクラブのメンバーであるロビン・ディーン氏は、次のように話している。

「EVに乗る人たちは冒険好きで、自分がどこまで行けるのか、他の人が行ったことのないところに行ってみたいと思っています。しかし、どんなリスクもアウトバックでは無視できません。旅は計画的に行う必要があります」

揚げ物に使った油でバイオマス発電

ナラボーは、オーストラリア全土を網羅するEV急速充電ネットワークにおいて、事実上埋められない空白地帯となっている。主電源がなく、太陽光発電のコストと需要が見合わない現状で、ナラバーをEVが自由に立ち入れるようにするには、オーストラリア流の問題解決が必要だった。

それは、カイグナのロードハウスで販売されている揚げ物である。元エンジニアのジョン・エドワーズは、ろ過した食用油で動く発電機を開発し、50kWのEV充電器に電力を供給することができるようにしたのだ。

西オーストラリア州にあるカイグナ。ロードハウスと呼ばれる小さなサービスエリアがあり、通行人に食料や燃料を提供している。
西オーストラリア州にあるカイグナ。ロードハウスと呼ばれる小さなサービスエリアがあり、通行人に食料や燃料を提供している。

カイグナ地区のマネージャーであるトロイ・パイクは、「作れば人が来る」と考え、エドワーズに発電機を設置するよう交渉を試みる。そして、新型コロナウィルスにより設置が決定した。西オーストラリア州と南オーストラリア州の州境は、トラック以外立ち入り禁止となり、交通量は80%減少。2月に再開したカイグナには、得られる限りの客が必要だ。たとえそれが、発電機に誘われたEV巡礼者だとしても。

1月、エドワーズのバイオマス発電機第1号がカイグナに設置された。

「わたし達は、燃料を売るためにここにいるのであって、電気を売るためではありません」とパイクは言う。「しかし、慎重に協議した結果、EVやハイブリッド車は未来のクルマだと捉え、合意に至ったのです」

パイクによると、彼が経営する3つのロードハウスでは、毎月60Lの廃食油を寄付することができるという(寄付しなければ埋め立てられる)。2022年はEVを無料で充電でき、それ以降は有料になる。クラウドファンディングを立ち上げ、追加の発電機1台につき7万ドル(約880万円)を支払うことで稼働を支援するキャンペーンを行っている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ。テレビゲームで自動車の運転を覚えた名古屋人。ひょんなことから脱サラし、自動車メディアで翻訳記事を書くことに。無鉄砲にも令和5年から【自動車ライター】を名乗る。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴとトマトとイクラが大好物。

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