フェラーリ458スペチアーレ vs マクラーレン650S

公開 : 2014.07.04 23:50  更新 : 2017.05.29 19:33

ハイパーカー。筆者自身、ハイパーとは一体何なのだろうかと考えることがある。と言うのはつまり、次から次へとリリースするスーパーカーはその時々でハイパー(超弩級)であるはずなのに、新しいものはあっさりと先代の成し得たものを塗り替えてゆき、かつての ’ハイパー’ は即座にハイパーではなくなるからだ。

ただし現在のクルマづくりに関して言えば、それは決して否定的に捉えるべきではなく、むしろ喜ばしいことなのではないだろうか。

マクラーレンのF1とブガッティEB110のような間柄と、マクラーレンP1とブガッティ・ヴェイロンとの間柄は、いまや全く違うものになっている。かつてのように狂気的なポテンシャルを全面に押し出していた頃に比べ、幾分控えめに、各メーカーそれぞれ異った味を顧客に向けて伝えるようになったのである。

フェラーリ458 スペチアーレとマクラーレン650Sの2台と48時間を過ごして、なおさらそう感じずにはいられない。スピードの進化、機械の精密化、にじみ出る魅力、それらどれをとっても異なったアプローチをしているのだ。

現代のマクラーレンを街なかで走らせるとしよう。一体どれほどの人がかつてマクラーレンF1に釘付けになったように、立ち止まって振り返るだろうか。視界に入ったとしてお“昔ほど大きくないのね、なんだかちょっと残念”と言うにちがいない。

608psを発揮するミド・エンジンの高級な玩具を買うには£200,000(2961万円)を必要とする。そこで読者に対して質問。パーフェクトとはどのように定義づければいいのだろうか。

2台ともがバンク角90度のビッグ・ボアV型8気筒を採用し、さらに全高もぴったり等しい1203mmとなる。

ホイールベースは2-3cm、全長は5-6cmの差がある。マクラーレンは一般的なスタビライザーを持たず、連結された4輪それぞれの可変ダンパーが独立して動きながらボディーをコントロールする一方、フェラーリの場合はよりシンプルな可変ダンパーとスタビライザーを用いながらそのどちらともが電動油圧式パワー・ステアリングを採用する。また前者はダウン・サイジング化したエンジンをターボ加給し、カーボン・モノセル構造を選んでいるが、後者の場合は自然吸気エンジンとアルミニウムと多様な合金を選ぶ。乾燥重量は前者が1330kg、後者が1395kgとなる。

並べられた数値を見る限りこの2台に関して大きな差が無くに感じるのも無理はない反面、双方が担う役割は大きく異なる。あなた自身が650Sに求める ’ロード・ゴーイング・カー’ たる側面に対して、本当に走りと乗り心地を妥協無く両立させられているのだろうか、という疑問をもつこともあるだろう。

458 スペチアーレはあなたの考えるとおり、目が眩むほどエキゾチックで、サーキットでは必ずと言っていいほどヒーローにになれることは間違いない。日常的な運転も同様である。いままでマクラーレンばかりが、これらをもてはやされていたような気がしなくもないが、ここまでに458が素直にそして機嫌よく日常の道路を走り抜けてしまうと、マクラーレンのスポーツ性とサーキットでの適正を考えた時に、さらに問題を突きつけられることになるのだ。

今回のテストでは、マクラーレンからは650S スパイダーしか借り受けることが出来なかった。しかしそのお陰で、カーボンファイバー製のバスタブはルーフがあろうが無かろうが動力性能にさして変わりがないということがわかった。

以前に12Cをテストした時も同様だった。ルーフを開け放って走行したとしても、ハンドリングは正確で乗り心地は洗練されているのだ。そう考えると、ひと味ちがう魅力を動力性能を損なうことなく一気に手にしているとも言えるのだ。

そのうえ、マクラーレンP1からインスピレーションを得た650Sのルックスはさらなる魅力を与える。フロント・マスクを一目見れば、とたんに12Cのそれが色あせて見えるかもしれない。カーボン製のフロント・スポイラーは攻撃的に見えるだけでなく、機能的にも見える。見えるだけでなく、実際にも12Cよりも大きなダウン・フォースが得られるのだ。

2台を並べてみると458の方が12Cよりも眩しく映るが、650Sが地味かというとそうではない。458に関しては、新しいモデルが発表されるたびにエア・スクープが拡大化する一方だ。スペチアーレもボンネットと後方のデッキにスクープが設けられ、フロントにはカミソリのような黒いメッシュが貼り巡らされるおかげで少しばかり散らかった印象を与える。リアに至ってはまるでル・マン・カーのプロトタイプのような様相だ。実際のところ、それらはすべて数値結果として機能するらしいのだが。その点、すべてが整った650Sは458スペチアーレでさえも大胆さを欠き、遠慮がちに見せる力があるのだ。

458のインテリアはついニヤリとしてしまう仕掛けが施されている。カーボンが贅沢にあしらわれ、それ以外は色んなモノが取り払われている。ステレオにアームレスト、それに一般的なセンター・コンソールやグローブ・ボックスでさえもどこかにひっそりと追いやられてしまったようだ。そういった意味合いにおいてもニヤリとしてしまわざるを得ない。

長い一日の終り、南ウェールズのブレコン・ビーコンズからカッスルクームに向かう途中ふとした時にマクラーレンに乗っているスタッフのことがちょっとだけ羨ましくなることがあった。アルカンターラに包まれながら、音声認識ナビゲーションに従って、トラフィック・レポートにセットしたDABラジオに耳を傾けながら、クルーズ・コントロールに身を任せているスタッフのことが。現実世界ではそれぞれのシステムの正確性も問題にはなるけれど。

素材のクオリティはどうだろうか。残念ながらフェラーリがわれわれの期待に応えることはない。一方650Sはテスト初日から良き印象を与えた。それも日を追うごとになおさら印象がよくなっていくのだ。薄さの際立つ調度やスイッチはスペチアーレのそれよりも、触れて良し、感じて良しなのである。

マクラーレンに対して、フェラーリはビジュアル面のインパクトと静的な優雅さが不足しているにもかかわらず、運転した直後からあなた自身を興奮で震え上がらせることは間違いないだろう。その結果、マクラーレンはフェラーリの生み出した、いまや英雄的なモデルである430スクーデリアや599GTO、360チャレンジ・ストラダーレが虜にした顧客層を味方にするために躍起になって開発を進めることになるだろう。

スペチアーレに乗り込めば、ゆっくりとそこら辺を行き来するだけでもあなたを興奮の絶頂まで導いてくれるはずだ。ステアリングは割に軽いがとてもダイレクト。そして458イタリアに比べて信じられないほど正確で、グリップの高いカップ・タイヤだからこそ得ることができるレスポンスと接地感をもつ。モーターウェイのサービス・エリアから道路に帰すときはまるで、ファミリー・カーの類とはかけ離れた、ヘリコプターの離陸のような迫力がある。

フェラーリ謹製の ’マネッティーノ’ ドライブ・モード・コントローラーをレース・モードに入れて走れば、どもりがちな90km/h後半でさえもV8エンジンの咆哮は淀みなく耳に届く。左側のパドルを引いてギアを2段落とし、右足でアクセル・ペダルを踏み込めば、さらに大きな、善悪の境さえも薄らぐエグゾースト・ノートが響き渡る。レスポンスは研ぎ澄まされているのだが、このクルマの暴力的なパフォーマンスを露わにするには高回転まで回し、適切な道路のスペースが必要なのだ。

スペチアーレは常に速いのだが、獰猛で耳を劈くようなエグゾースト・ノートを奏でるのは7000rpmから9000rpmのあいだに限定される。

その反面650Sは苦労なしに速く走らせることができる。乗り手を覚醒させることはあまりないが、決して遅いというわけではない。リカードが手がけるV8エンジンの新しいピストンとシリンダー・ヘッドは芸術的な音を期待する向きには作られていない。強制インダクションのもつ特有の音は耳に届き、エグゾースト・ノートは時に吠えるかのような音を出すが、美声とは言えない。

コースにハードルをおけば、ターボ・ラグがどれほどのものかを見ることができるだろう。高いギアかつ低い回転数ならばターボ・ラグが起こりやすいのだが正直なところ、それがどうした? と言いたい。通常の使用においてはエミリア=ロマーニャ州で作られた458のエンジン同様に低回転でも良好なトルク供給をしてくれるのだから。

マクラーレンのエンジンはフェラーリのエンジンほど情熱が漲っているようなキャラクターを持たないが、かなりのスピードで走らせればマクラーレンの方が強い力を持っているように感じる。3500rpmから、そのエンジンが持つ強力な押し出しを味わうことができるのだ。

もし公道だけでこのテストが行われたとしたら勝者は違っただろう。スペチアーレの強力なグリップと恐怖心を与えるようなダイレクトなセッティングは少なくとも横方向では洗練したマナーとともにスリルを好むドライバーを、中毒にさせるに違いない。しかし650Sの方が公道では動力性能が優れているように感じるからである。

低速でフェラーリを走らせた場合、緊張感のあるサスはわずかに落ち着きなく荒い路面を吸収しきれていないけれど、他の速度域では驚くほど柔軟性があるのだ。簡単に言うとスペチアーレは実直で、グリップと機敏さは突出しているのだがナチュラルなシャシーを持っている。

一方のマクラーレンのシャシーは魔法がかけられているような感覚に襲われる。仮にそっくりなバンプが2つあったとしても、それぞれ異なった最適な動きをわずかな違いをつけて行うのだ。その結果、ほとんどの路面において並外れた乗り心地を提供するのである。フェラーリのそれより僅かながらに柔らかく、上下方向の動きの幅も大きいおかげで常に終始欠点のつけようのない動きを行うのである。

ステアリングはフェラーリよりもマクラーレンの方が少し重みがあり、わずかにゆっくりと動き、直感的に操舵できるゆえに優れているといえる。フェラーリの場合、いい意味で粗野であるため田舎道では機械的に650Sの方が洗練しているように感じるのだ。これが素晴らしい、あれが素晴らしいと書くよりも、’たくさんのおもてなしをしてくれる’と書いたほうが分かりやすいかもしれない。

スペチアーレは高速域で走った時に、ドライバーをノックアウトさせる引き出しをたくさん持ち合わせている。それらを引き出そうと思うならば、一般道では到底叶わないので、サーキットに持ち込むのが一番手っ取り早い。ただし、サーキットに着いたならば今度は騒音テストで不合格のレッテルを貼られるだろう。だけれどもあなたはフェラーリ・オーナーなのだから、試験官を言いくるめてパスできるはずだ。それくらいのスキルは求められて然りだ。

いざトラックに乗り出せば、猛威的なスピードに存分に浸れるというわけだ。ドライビング体験の全てにおいて、強固な正確性をあなたが望む望まないに関わらず感じ取ることができるだろう。

レース・モードでは、あなたの知らないところで賢さのあるデフとスタビリティ・コントロールが多分に仕事をしてくれる。すべての制御を完全にオフにすれば、オーケストラの奏者が指揮者に従順に従うように、キビキビとあなたの入力に答えてくれるはずだ。だからといってドライバーは人間なのだから、ほんの一瞬におけるエラーは間違いなくある。そんな時にはきちんと手助けをしてくれるのだから、コントロールを完全に失うことはない。

以上がスペチアーレの手腕といったところだ。威圧的ではあるけれど、夢中させるのだ。マクラーレンも全てにおいて素晴らしい。だがそれ以上でもそれ以下でもない。650Sには458ほどサーキット上でのデリケートかつ研ぎ澄まされた感覚はもたらさない。

言い換えれば、マクラーレンはスペチアーレほどドライビングの世界にのめり込ませることはない。とてもいいのだけれど、突き抜けてはいないのだ。あくまで冷静に仕事に徹するのである。両者が一歩も譲らぬ戦いはまだまだ続きそうだ。今まで以上にその攻防から1秒たりとも目が離せない。

(マット・ソーンダース)

フェラーリ458スペチアーレ

価格 £208,000(3,300万円)
最高速度 325km/h
0-100km/h加速 3.0秒
燃費 8.5km/ℓ
CO2排出量 275g/km
乾燥重量 1395kg
エンジン V型8気筒4497cc
最高出力 597bhp/9000rpm
最大トルク 55.0kg-m/6000rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

マクラーレン650S

価格 £195,000(3,360万円)
最高速度 333km/h
0-100km/h加速 3.0秒
燃費 8.6km/ℓ
CO2排出量 275g/km
乾燥重量 1330kg
エンジン V型8気筒3799ccツインターボ
最高出力 650ps/7500rpm
最大トルク 69.1kg-m/6000rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

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