天から舞い降りた姿 シトロエンID 繁栄を支えた傑作 ジャガー2.4 1955年生まれの個性派(2)

公開 : 2025.12.21 17:50

1955年発表の個性的なサルーン 定評を高める設計と製造水準にあったジャガー2.4 天から舞い降りたように美しいシトロエンID 異なる方向性を持つ同期の2台を、UK編集部が振り返る

天から舞い降りたように美しいフォルム

1934年のシトロエン・トラクシオン・アバンのように、DSもクルマを再定義するようなモデルといえた。美術品のように美しいフォルムを、天から舞い降りてきたようだと表現する人もいた。斬新さに言葉を失った、古い英国車ユーザーも多かっただろう。

自動車雑誌のオートスポーツ誌は、「英国車は単にモダンなボディを纏った、古いクルマに過ぎません」。とDSの印象を伝えている。モーター誌は、「広々としていてラグジュアリー。充分な速さで、路面を問わず新基準の快適性です」。と称えた。

シトロエンID 19(1955〜1969年/欧州仕様)
シトロエンID 19(1955〜1969年/欧州仕様)

英国価格は、1403.12ポンド。ジャガー2.4より高価だったが、ご近所に衝撃を与えることも非現実的ではなかった。また1956年には、廉価版のIDが登場。簡素な内装にやや非力なエンジン、パワーアシストのないステアリングなどで、価格が抑えられていた。

翌1957年には、フロントガラス・ウォッシャーやカーペット、上級なシートを備えたID コンフォーが追加。ヒーターと助手席側サンバイザーを省き、塗装色がブラックだけのノマーレも用意された。

車内を明るく照した半透明のルーフ

IDはロンドンの西、スラウの工場でも生産。グレートブリテン島のドライバーを引き付けるため、レザー内装とウォールナット・ウッドのダッシュボードが、英国仕様として用意された。上質な車内は、会計士の気持ちを充分に掴めたに違いない。

対して、フランス製はプラスティック製部品が多い。オーナーのレグ・ウィンストン氏も、そこを指摘する。「未塗装のFRP製ルーフパネルの他、リアのウインカー・カバーやダッシュボード、カーペットなどが樹脂製。リアウインドウもアクリル製です」

シトロエンID 19(1955〜1969年/欧州仕様)
シトロエンID 19(1955〜1969年/欧州仕様)

果たして英国では、同クラスの国産サルーンを凌ぐ人気を獲得。DSではオートマティックだったが、IDの標準だった4速マニュアルを、あえて好む人も多かった。ブレーキペダルも、丸いマッシュルーム状ではなく一般的なプレートで、踏みやすかった。

IDの生産は13年間続き、延べ83万5666台がラインオフ。DSシリーズでは、57%を占める主力モデルとなっている。1962年式までは半透明の樹脂製パネルがルーフを覆い、車内が陽光で明るく照らされたことも、支持を集めた理由かもしれない。

パンクしても有能なサスで殆ど気付かない

ウィンストンがID 19を手にしたのは、10年前。「パワーアシスト・レスを補うスローなステアリングレシオや、高速道路でアクセルペダルを戻しても殆ど減速しない特性には、最近慣れてきました」。恐らく後者は、優れた空力も影響しているはず。

「パンクしても、サスペンションが有能で殆ど気付かないでしょう。個人的には、ブランドの精神を強く感じる部分ですね」。と彼が続ける。スチール製のホイールは、クロームメッキ・キャップが覆う。

シトロエンID 19(1955〜1969年/欧州仕様)
シトロエンID 19(1955〜1969年/欧州仕様)

このスタイリングを手掛けたのは、フラミニオ・ベルトーニ氏。ルーフ後端で、ドライバーの目線に合わせたウインカーが光る。まだ、交通ルールが緩かった環境に合わせて。ドアはピラーレスで、ダッシュボードには外気を導く送風口が伸びる。

シトロエンを専門とする、ジェイミー・ピゴット氏が説明する。「理想的な状態なら、自分のためにDSが走っているように感じます。未来のクルマのように。廉価なIDは、積極的に運転したい、パリのタクシードライバーのためのシトロエンといえますね」

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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