【第15回】サイトウサトシのタイヤノハナシ~タイヤ製造方法の進化と製造国~

公開 : 2025.12.17 12:05

タイヤのためなら世界各国どこへでも、というサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなく披露するこのブログ。第15回は各メーカーが取り組む新たな製造方法と製造国について考えます。

畳10畳ほどのスペースで完結

タイヤメディア系のご同業の方数名と、夜のジョホールバルの街に繰り出し、飲んだくれた(当社比)ことがありました。

なんでそんなところをうろついていたのかというと、じつはトーヨータイヤのマレーシア工場の開所式の取材だったんです。この工場は、最新式のタイヤ製造モジュールを導入しています。

2013年に落成した、トーヨーのマレーシア工場。
2013年に落成した、トーヨーのマレーシア工場。    斎藤聡

前々回(編集部注:【第13回】サイトウサトシのタイヤノハナシ~改めて知りたい タイヤの作り方~参照)、タイヤの作り方の話をしましたが、じつはもっと自動化したタイヤ製造技術も各メーカー独自に確立しているんです。

ボクが実際に目にしたのは、ピレリのMIRSとトーヨータイヤのA.T.O.M.。『MIRS』は、『モジュラー・インテグレーテッド・ロボタイズド・システム(Modular Integrated Robotized System)』の略。A.T.O.M.は『Advanced Tire Operation Module』の略です。

うんと大雑把に言ってしまうと、イメージとしては畳10畳くらいのスペース(メーカーによって大小差があるようですが)で、カーカスの製造からタイヤパーツを組み立てまで全自動で行い、最終工程となるモールドに入れる直前までできてしまうというものです。

このほか、住友ゴムは高精度メタルコア製造システム『NEO-T01 (ネオ・ティーゼロワン)』を、ミシュランもC3M (Carcass/Compound/Cure/Mold) 製法という自動化技術を確立しています。また、ブリヂストンも『BIRD (Bridgestone Innovative & Rational Development)』という自動タイヤ製造技術を持っているそうです。

ちなみに、ミシュランのC3M製法で作ったタイヤに、BFグッドリッチの、確か『スコーチャーT/A』(だったと思うんですが……)があります。トレッドの一部にカラーを入れたタイヤでした。タイヤの回転気配の少ない、つまり抜群にユニフォーミティが優れているタイヤだったのを覚えています。

このほか、ミシュラン・パイロットスポーツ4SやスポーツCUPの一部サイズにミシュランのC3D製法で作られたタイヤがあるそうです。

新製法の弱点は『大量生産』

では、なぜこの新製法にタイヤ製造が本格移行しないのかというと、大量生産に向かないからです。

トーヨータイヤのA.T.O.M.だと1本/3分くらいで作れるのだそうですが、これでは大量生産には向きません。しかも複数のタイヤサイズが必要ですから、やはり従来の工法のほうにメリットが大きいわけです。

1本を3分くらいで作れるものの、従来の工法の方がメリットは大きい。
1本を3分くらいで作れるものの、従来の工法の方がメリットは大きい。    斎藤聡

ピレリのMIRSを見たのはスペイン工場だったように記憶しています。トーヨータイヤのA.T.O.M.はマレーシアです。タイヤメーカーはさまざまな国でタイヤを製造しています。

別視点の話になるのですが、自動車メーカーが装着タイヤを選定するとき、たいていの場合、複数メーカーを指定します。これは、指定したタイヤメーカーで、仕向け地のすべてをカバーできるようにしているからです。

そのためタイヤメーカーは、世界中にタイヤを供給できるように、様々な地域に流通網を構築し、工場を作るわけです。

そこで不安になるのが、果たして生産国が違っても、同一銘柄のタイヤの性能は同じなのか? もっというと、生産国が異なってもタイヤメーカーあるいはブランドごとのテイストは守られているのか、です。

メーカーの公式見解では、同じ銘柄のタイヤであれば、どの国で作っても同じ性能である、ということになっています。

でも、タイヤの製造の様子を見たり聞いたりしていると、気温や湿度に比較的敏感ですし、タイヤの材料を攪拌する(こねる)バンバリーミキサーの回転数によってもタイヤの特性が変わってくるというので、厳密に同じものができるということに素直にはうなずきにくい気がします。

もちろん、そんなタイヤ開発・製造にかかわる苦労は、今に始まったことではないので、そんな問題はとうの昔にクリアしている……のかもしれませんが。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    斎藤聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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