オールシーズン・グランドツアラー メルセデスAMG SL 55へ試乗 完璧なプロダクト

公開 : 2022.12.08 08:25

上級のオールシーズン・グランドツアラー

乗り心地は全般的に優れている。しかし、路面が荒れてくると明確に陰りが生じる。

AMG SL 63が採用する、アンチロールバーが備わらないマクラーレン風のクロスリンク油圧ダンパーなら違うだろう。AMG SL 55には、従来的なアクティブ・サスペンションが装備され、しなやかに処理できない区間も存在した。

メルセデスAMG SL 55 4マティック+ プレミアム・プラス(英国仕様)
メルセデスAMG SL 55 4マティック+ プレミアム・プラス(英国仕様)

とはいえ、英国郊外の道をハイスピードで受け流せる。贅沢に仕立てられたインテリアに包まれれながら、路面と息を合わせるようにな足さばきによって、長距離をエレガントに走破できる。

シャシーは、トラクションが素晴らしい。冷えて湿った路面でも、2速でフルパワーを発揮できるほど。97km/h以下ではフロントタイヤと逆位相にリアタイヤが向きを変える後輪操舵システムの効果で、敏捷性もすこぶる高い。

高速域であっても、ライン調整は容易。アクセルペダルを加減しながら、V8ツインターボを味わう自信をドライバーに与えてくれる。

四輪駆動でもあり、上級のオールシーズン・グランドツアラーとしてAMG SL 55の能力は圧倒的。操縦性の精度も感動的。シャシーやエンジンの性質は、ふんだんに用意されたドライブモードで選べる。クルマの特性も大きく変化する。

ただし、ポルシェ911の直接的なライバルになり得るかと聞かれると、回答には少し悩む。車重が1870kgと重すぎる。シャシーはその質量を巧みに管理するものの、影響から逃れることはできない。

ラグジュアリーな質感とソリッドな動的能力

ドライバーは、常に重さを意識してしまう。確かに、予想外に急なヘアピンカーブでフロントが外へ大きく膨らんだり、一歩遅れ気味に身をこなすことはない。AMG SL 55のチューニングは見事だが、そうなりそうな不安がつきまとう。

電動機械式パワーステアリングは、AMG GTが採用する電動油圧式ほど情報量が多くない。強みともいえるが、四輪駆動のシャシーは特性がニュートラル過ぎるようにも感じた。

メルセデスAMG SL 55 4マティック+ プレミアム・プラス(英国仕様)
メルセデスAMG SL 55 4マティック+ プレミアム・プラス(英国仕様)

ラグジュアリーな質感とソリッドな動的能力を求めるなら、まさにメルセデス・ベンツが得意とするところ。新しいAMG SL 55に満足できるだろう。内装には冴えないプラスティック製部品が若干あり、風の巻き込みを防ぐディフレクターは手動だが。

しかし、アグレッシブなスポーツモデルとして期待すると、印象はやや表面的。グランドツアラー寄りのドライビング体験には、もう少し心へ訴えかける味わいの濃さがあっていい。難なくハイスピードで駆け抜けられるが、英国で運転した限りそう思えた。

メルセデスAMG SL 55は、極めて能力に長けている。ブランドとして完璧なプロダクトだといえる。あまりにも完璧で、施され過ぎなのかもしれない。超速で快適な2+2のAMGと、歩み寄ることなく日常的に暮らせる。

一層パワフルで、高度な技術が搭載されたAMG SL 63は英国でどんな印象を与えてくれるのだろう。これ以上の情熱的な高みを体験できるのか、興味深いところだ。

メルセデスAMG SL 55 4マティック+ プレミアム・プラス(英国仕様)のスペック

英国価格:14万7475ポンド(約2448万円)
全長:4705mm
全幅:1915mm
全高:1359mm
最高速度:294km/h
0-100km/h加速:3.9秒
燃費:7.8km/L
CO2排出量:292g/km
車両重量:1870kg
パワートレイン:V型8気筒3982ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:475ps/5500-6500rpm
最大トルク:71.2kg-m/2000-4500rpm
ギアボックス:9速オートマティック

記事に関わった人々

  • リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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