最初から最高だった メルセデス・ベンツSクラス W116 280SEから450SEL 6.9まで 後編

公開 : 2023.04.08 07:06

安全で高速で頑丈。ラグジュアリー・サルーンの基準を打ち立てた初代Sクラスを、英国編集部が振り返ります。

後席の膝前に余裕がない標準ホイールベース

初代Sクラスとなる、メルセデス・ベンツのW116型。今回ご登場願った3台のうち、ピーター・グルナート氏が所有するのは1975年式の280SE。明るいグリーンのボディは美しく、走行距離は短い。MBテックスと呼ばれる合皮の内装も、状態が素晴らしい。

シルバーの350SEは1979年式で、ヒュー・フランシス氏がオーナー。長年のメルセデス・ベンツ愛好家だそうで、こちらも見事な状態を保っている。

グリーンのメルセデス・ベンツSクラス 280SEと、シルバーの350SE
グリーンのメルセデス・ベンツSクラス 280SEと、シルバーの350SE

ロングボディが凛々しい450SEL 6.9を所有するのは、アンソニー・ディアリング氏。ダークブルーのレザー内装が高級感を漂わせる。

車内を観察すると、特別なウッドパネルや車高調整の小さなノブ、時計と一体になった小さなレブカウンターといった違いを発見できる。運転席からの良好な視界や骨太なステアリングホイール、硬めのシート、重厚なドアの開閉音などは3台で共通する。

乗り比べてみると、標準ホイールベース版のリアシート側は、膝前の空間に殆ど余裕がないことへ驚く。カーブで身体を保持してくれるのは、摩擦の大きい350SEのベロア生地。ボディロールは小さくないものの、独特の質感が伴い快適だ。

筆者としては、280SEの実用主義的なMBテックスの風合いや、横方向に木目が揃うウッドパネルが好きだ。ツインカム直列6気筒エンジン、M110型ユニットの質素な眺めにも親しみを持てる。

何度体験しても惹き込まれる興奮の加速力

機械式インジェクションでドライサンプ化されたM100型6.9L V8ユニットには、特別感がにじみ出る。エンジンルームを開くと、大きいカムカバーとバッテリー、ハイドロニューマチック用のポンプが余地を埋めている。

路上を進み始めると、3.5L V8エンジンを積んだ350SEが際立って滑らかで静か。低めのギア比で回転数が高めになるため、アウトバーンの巡航速度でも不足ない加速力を引き出せる。

メルセデス・ベンツSクラス 450SEL 6.9(W116/1975〜1980年/英国仕様)
メルセデス・ベンツSクラス 450SEL 6.9(W116/1975〜1980年/英国仕様)

燃費は、新車時のテストによると350SEが4.6km/L。450SEL 6.9では2.4km/Lを残している。

そのかわり、最大トルクが350SEの2倍ある450SEL 6.9は、何度体験しても惹き込まれるような興奮の加速力を味わえる。高速道路の合流車線では、弾ける勢いでダッシュする。他車を置き去りにする追い越し車線での豪快さに、改めて感心する。

160km/hからでも、右足へ力を込めればV8エンジンが轟音を放ち、フロントノーズを軽く持ち上げ突進が始まる。望んだ場所へ、最短時間で運んでくれる。

半世紀前のクルマでも、280SEと350SEを、カーブで限界に追い込むことは難しい。今でも充分に通用する安定性は、感触が豊かでロックトゥロック3回転のステアリングラックと、ステアリング機構の設計、強いキャスター角が引き出している。

450SEL 6.9もカーブを高速で抜けられるが、右足の力加減には注意が必要。路面が湿っていると、突然テールスライドする瞬間に見舞われる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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