テスラの右ハンドル車生産終了に動揺広がる 「説明もなくお粗末」と怒り心頭 英国

公開 : 2023.05.26 18:05

テスラ・モデルS/モデルXの右ハンドル仕様の生産終了が発表され、左側通行の国では動揺が広がっています。英国では注文をキャンセルして、ポルシェやメルセデスの販売店に駆け込む人も。

2年以上待たされた挙げ句に左ハンドル? キャンセル相次ぐ

テスラは、モデルSおよびモデルXの右ハンドル仕様の生産を終了した。両車については、今後左ハンドル仕様のみが生産・販売される予定だ。

5月12日に発表されたこの決定で、左側通行を採用している英国やオーストラリア、日本、アジアの一部地域が影響を受けることになる。

右ハンドルの納車を待っていた顧客には何らかのサービスが付与されるが、注文を取り下げるケースも少なくないようだ。
右ハンドルの納車を待っていた顧客には何らかのサービスが付与されるが、注文を取り下げるケースも少なくないようだ。

モデルS/モデルXの右ハンドル仕様の生産終了の理由としては、本来の左ハンドルからの転換に機械的・物流的なコストがかかるためと言われている。販売は継続されるが、納車されるのは左ハンドル仕様のみとなる。

テスラの日本向けウェブサイトでは、「日本で納車されるModel S(Model X)はすべて左ハンドル仕様です」と明記されている。モデル3モデルYについては、今のところ同様の発表はない。

英国では、モデルS/モデルXの新車納車を何年も待っていた顧客が、左ハンドルのみで供給されるというニュースを受け、相次いで注文をキャンセルしている。なお、顧客には3年間のスーパーチャージャー無料使用権が付与されるとのことだ。

ソーシャルメディア上では多くの人が動揺を隠せないでいる。その中の1人、テスラオーナーのポール・ジョーンズさんは、次のように語っている。

「わたしは2018年のモデルS 100Dの新車時からのオーナーであり、2021年10月からはモデルSプレイドの納車を待っていました。クルマは大好きですが、(今回の決定は)歯がゆくて仕方ないです。2021年以来、わたしのクルマは遅れているもののまもなく納車されると何度も言われてきましたが、今、説明もなくこれとは、非常にお粗末です」

「メールを受け取って最初にしたことは、地元のポルシェ・ディーラーに向かうことでした。タイカン・ターボSの試乗を予約しましたよ」

同じくテスラの対応に幻滅したハリー・グリーンさんは、早速ライバルメーカーに新車を注文したという。「2020年10月からモデルXを注文していました。今はメルセデスのEQSを注文しています」

また、左側通行の英国で左ハンドル車を使うことに不安を感じている人もいる。ジョン・スカーロットさんは、「追い越しはとても危険です。何か来ないか確認するために、クルマの半分を反対車線に出さなければならないからです」と話している。

この懸念に対処するため、テスラは5月28日から6月30日にかけて、英国の予約者が左ハンドル車を体験試乗できるイベントをロンドンで実施するとしている。

ディーラーもまた、テスラの決定に不意を突かれた形だ。英ハンプシャー州にあるEV専門店Rシモンズのオーナーであるリチャード・シモンズ氏は、「青天の霹靂ですよ」と話す。

シモンズ氏によると、店舗では時折、左ハンドルの中古のモデルSを販売することもあるが、その需要は極めて少ないという。「ニッチな市場なので、左ハンドルの新車はすぐに大赤字になるのではと心配しています。特に、テスラが右ハンドル車の輸入を再開することになれば、その可能性があります」

今回の決定は、中古車の価値にも影響を与えるのだろうか。テスラは今年、車両価格の引き下げを繰り返してきたが、英国の中古車市場には大きな影響が見られる。

一連の値下げは、テスラの中古車だけでなく、競合他車の中古車の価値も下落させた。4月までの段階で、業界価格データベースCap HPIによると、1年落ちで約3万2000km走行したEVの価値は前年比20%ダウン、3年落ちで約10万km走行した場合は前年比25%ダウンしたという。

Cap HPIの予測戦略責任者であるディラン・セッターフィールド氏は、今回のテスラの決定が既存車両の価値に大きな影響を与える可能性は低いとし、次のように述べた。

「英国ではどちらも台数が比較的少ない。2013年から2021年の間にモデルSは1万1000台強、2016年から2021年の間にモデルXは6500台弱が登録されました。これらの数字は、すでに道路を走っている9万台以上のモデル3や、今年末までに登録が完了する8万台以上のモデルYに比べれば、取るに足らないものです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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