ルノー・トゥイージー

公開 : 2013.11.12 21:00  更新 : 2017.05.29 19:22

■イントロダクション

ルノー・トゥイージーがデビューを飾ったのは、2009年のフランクフルト・ショーだ。その時の名前はトゥイージーZEコンセプトといものだった。

ショーの話題をさらうだけでなく、隣り合って展示されたルノー本体の作品、ZOE ZEコンセプトからも観衆の視線をさらってしまった。四隅でむき出しのタイヤと、既成概念にとらわれないヘッドランプ・デザインは、市販化する時には採用されないデザイン上の演出であった。

ルノーは、EVマイクロカーというコンセプトについて、知的財産権を主張できない。それは、ここ10年以上にわたってショーのたびに、エネルギー効率が優れた同様のパーソナル・モビリティが発表されていたからである。

だが、永遠とも思える不遇の下積み時代はここに終わり、電気自動車のマーケットはとうとう花開いた。日産リーフは、2011年のカー・オブ・ザ・イヤー(ヨーロッパと日本)を受賞し、世界のいたるところでこの新しいマーケットの草分けとして活躍している。

その上、最近導入されたシボレー・ボルトとその姉妹車のヴォグゾール・アンペラは、日常ユースに耐える初めてのファミリーEVとして、英国市場の扉を開いた。

トゥイージーは政府の産業奨励策に頼ることなく、手ごろな価格帯のEVとして英国での地位を得るだろう。クルマのようであり、スクーターのようでもあり、加えてゼロ・エミッション(排出ガスはない)というのがその特徴だ。「先見の明がある」と自認する人は、来たる近未来、急成長し続ける都市を駆け巡るにふさわしいのは、まさにトゥイージーのようなクルマだと言うだろう。

では、我々現代人にとってはどうだろうか?

■デザイン

ルノーがすでに英国導入した二つのZEモデルとは異なり、電気自動車として一から作り上げられたのが、このトゥイージーである。

技術的には、電気自動車ではなく、超小型モビリティである。このいわゆるサブAセグメントの市場は、今までモータージャーナリストからとりたてて触れられる機会のないものだったが、今後10年のうちに急成長すると期待されている。

GM、フォルクスワーゲンBMWプジョーホンダトヨタ、日産といったメーカーは、参入する段取りを整えてトゥイージーの登録台数の行方を注視している。

軽量なスティールで構築されたフレームはプラスティックパネルで覆われている。トゥイージーは、スマート・フォーツーと比べて全長が300mmほど短く、全幅も300mmほど狭い。しかし、ボディは強く安全である、とルノーは言っている。適切なクラッシャブル・ゾーンをフロントとリアに確保し、車体のセンターポジションに座るドライバーには4点式シートベルトを装備する。そしてパッセンジャーは、そのすぐ後ろの後席に座る。

運転席の直下には重さ100kg、容量6.1kWhのリチウムイオンバッテリーがある。それが、パワーインバーター経由でリアアクスルの直前に搭載された17ps、5.8kgmを発する非同期電気誘導モーターを動かす。駆動輪は後輪だ。重量配分は、われわれの計測では前45、後55を記録した。

ルノーは四隅にタイヤを配置したことで、大きくなり過ぎたうえにタイヤが二つしかないビッグスクーターの市場を狙うことができるのだ。トゥイージーのシャシーの構成は、足まわりに前後マクファーソン・ストラットを組み込み、車高の高い細身のクルマに降りかかるボディロールをアンチロールバーによって対処している。

驚くべきことに、ルノー・グループのスペシャリスト集団、ルノー・スポールがシャシー設計の詰めを担当した。そして、ハンドリングが楽しく、かつ、未熟なドライバーでも十分安全に運転できるよう助言したという。

■インテリア

4点式のシートベルトは、我々がよく目にするものの使いまわしで、2つのペダル、ステアリング、ウィンカーとワイパーのレバーも代わり映えのしないパーツで構成されている。これによりドライバーは、手の触れるところに違和感を感じることなくトゥイージーを運転できる。

センターシートであるうえ、テスト車にはオプションのシザーズドアまでついて、それを閉じたところで吹きさらしのままだというのに、その印象に変わりはない。

高めのドライビング・ポジションによって周囲の視界は良好だ。だが、テスターのほとんどが、トゥイージーは車内で運転しているというよりむしろスクーターに乗っている感じだと言っている。一般的なクルマの窓があるところからは風が吹きつけ続けるので、その印象が強まるのだ。そして、うすら寒い日に気分よくスピードを上げようものなら、ヒーター機能がまったくないことを嫌でも思い知らされる。

トゥイージーの運転席には、Bセグメントのどんなクルマにも見劣りしない十分な広さがある。スイッチ類は使いやすく、デジタル表示のメーター、トリップメーター、バッテリー残量計も把握しやすい。

インテリアはプラスチック製でチープな印象だが、十分に耐久性があり、拭けばきれいになるものだ。雨や道路のすすにさらされるのを防ぐすべがないので、これは重要なことである。収納スペースや付属品は、一般的なクルマというよりもありきたりなオートバイのものに近い。

皮肉なことだが、大型バイクはトゥイージーより大きなトランクを持っているかもしれない。一番大きな収納スペースはリアシート後方にある31ℓのボックスで、開けるのに手間はかかるし、物を入れるのは困難で、小さなショッピング・バッグがやっと入るというところだ。

トゥイージーは、より安全で、よりエネルギー効率の優れた移動手段となるかもしれないが、ビッグスクーターより実用的とはほとんど考えられない。7,000ポンド(約130万円)払うのだから、もっといいものを望む資格はあるはずだ。

■パフォーマンス

このクルマのパフォーマンスを判定するうえで手がかりとなるのが、スピードと航続可能距離の二つである。どちらも、あまり多くの期待をするべきではない。ルノーがやろうとしていることがこれで分かるのだが、同価格帯の乗用車に取って代わることよりも、G-WizやQpodといった小型自動車をトゥイージーは目指しているのだ。

これを受けての最高速度は80km/hとなっている。0-48km/h加速が8.4秒(2名乗車)を要するのは、数値上は過大に感じるが、現実的にトゥイージーは都市交通に遅れることなくついていく。とくに1名乗車の場合はそうだ。単にスロットルの踏み込み量を、普通のクルマより多くするだけなので、実際のところはスクーターに近い印象だ。

鼻息を荒げてこのクルマのスピードを上げるのは、運転が楽しくなる。たとえ他のクルマにとってなんともないスピードでも、トゥイージーにとっては限界を極める走りに感じられるからだ。

記録を狙うような運転ではなく、ごく普通に運転をすれば、トゥイージーの航続距離は70kmというところだ。スロットルワークを優しく、ノンアシストのブレーキを使わずに停車するのを心がければ、もう何kmか走れるのかもしれない。しかし、我々のテスト結果に大きな差は出なかった。

テストコースでは、急アクセルを多用したので、記録は43kmまで低下した。毎日、短距離の通勤をする人や、「ちょっとお醤油切らしちゃって」なんていう時には、トゥイージーは驚くほど使い勝手のいいクルマである。英国内の家庭用コンセントを使ってフル充電が3.5時間で済むのは、内燃エンジンなしのクルマとしては最高の出来だ。

■乗り心地とハンドリング

運転免許試験の合格をこれから目指す人向けにクルマを開発することは、ルノースポールが有するシャシー・チューニング技術を持ってしてもやっかいなことだったに違いない。低出力モデルのトゥイージーを運転免許をまだ持っていないティーンエイジャーに売る(最高速度45km/h制限、車両重量350kg未満のカテゴリーは、英国では免許不要)という、ルノーがヨーロッパにおいて計画しているビジネスモデルを考えれば、このクルマの走りのマナーは完全に筋が通っている。

トゥイージーは、シンプルで運転しやすく、都市の速度域でも楽しい乗り物だし、ESPとトラクションコントロールを装備していないにも関わらず、ある程度はグリップの限界まで耐えられる。

雨に濡れる街角を走るとき、法定速度の範囲内でもたやすく起きることだが、トゥイージーが曲がりきれない仕草を示したら、どうやってもコントロール不可能なアンダーステアがやってくる。それは、浅はかな16歳のドライバーに、我々大人が望むお決まりのフレーズで対処できる。そう、スピード・ダウンだ。

トゥイージーの優れたロール剛性は、このクルマのベースとなる特性を現している。ボディは、急なカーブやラウンドアバウト(英国特有の円形交差点)でロールすることはまずない。その代わり、短めのスプリングといかついアンチロールバーが、ステアリングを切るが早いか、皮だけのようなタイヤを地面に押し付ける。ステアリングの入力に対するクルマのレスポンスはとても速い。だが、激しく攻め込むと、外側のタイヤは、オン・ザ・ラインを守るのに十分なグリップを得るほどには踏みとどまれない。

快活で楽しく扱いやすいハンドリングを得ることはできたが、乗り心地が少しばかりしわ寄せを受けている。トゥイージーに生じるボディロールを押さえ込んでしまおうというルノーの手法は、シャシーとしての柔軟性までも、とくにリアエンドで顕著なのだが、捨て去ってしまった。

サスペンションはマンホールの蓋やスピード減速帯、穴ぼこだらけのアスファルトを無愛想にやり過ごせるほど優秀だが、それと引き換えに乗り心地にはほとんど注意が払われなかった。レスポンスに優れたステアリングと、狭いトレッドにより、大方の荒れた路面はなんなく乗り回せるが、それができないほどのところでは、ボディの機敏なコントロール性と引き換えに、サスペンション・ストロークを手に入れらないものかと望んでしまう。

■ランニング・コスト

ルノー・トゥイージーの7000ポンドという価格に賛意を表するなら、人目を引くことに苦労を惜しまない意気込みが必要だ。EVとしては手ごろな価格ではあるし、控えめな価格で新しいことをやってみたいという物好きにはしびれる乗り物だからだ。

もう一つ、おおらかな心で臨まなければならないことがある。購入費用の7000ポンドではバッテリーを自分のものにすることができないのだ。トゥイージーのバッテリーはエンドユーザーにはリース貸し出しとなるのだ。それも月額45ポンド(約8,000円)に始まり、累計距離の伸びとともに増額する仕組みだ。そのうえ保険料率まで割高なこのクルマを一台所有するというのは、エントリーレベルのクルマを所有するのに比べて、お得とは言えない。

グッドニュースもある。英国では、トゥイージーに「4+」アフターケアパッケージが付いてくる。これには、4年/16万km保障、4年間の定期検査、4年間のローンプラン、4年間のロードサービスが含まれる。ロードサービスされあれば、あなたのバッテリー切れ恐怖症を、ただの取り越し苦労に変えてくれるだろう。

また、充電時に使う屋外のコンセントも必要だ。備え付けのケーブルはたったの3mしかないので、自宅で充電できるという特権を台無しにするかもしれない。

満足度の高いトゥイージー・オーナーになるには、結局こんな人が向いている。バイクのように融通よく使って、バッテリーに負担がかかり、オープンシートが苦行としか思えない冬季には、トゥイージーをしまい込んでしまうタイプのオーナーだ。

■結論

現実的、客観的に判断して、ルノー・トゥイージーは無駄な買い物だ。航続可能距離80km、最高速度も約80km。ウインドウなし、ヒーターなしでコンパクトカー並みのお値段。

あえて「しかしながら」をつけたうえで続けるが、トゥイージーはドライバーに与える愉しみについて一家言を持っている。あなたも実際に乗り込んでみれば分かるが、このキュートな姿は、人に笑われるのではなく、一緒に笑うためのものなのだ。「笑う門には福来る」というやつだ。

一方で我々はこう言わざるを得ない。ここにまた一台、バッテリー以外の動力源を積んでいればと思わずにいられないクルマが増えた。

ただの楽しいクルマでしかない。維持費が安いクルマでしかない。そして、もっと普段使いに役立つ交通手段だったら、と思ってしまうのだ。

それでも、トゥイージーは憎めないやつだ。なんの代わり映えもしないクルマばかりが増えていくのを見ていると。

ルノー・ツイージー・カラー

価格 6,950ポンド(90.9万円)
最高速度 80
0-45km/h加速 6.1秒
燃費 NA
Co2排出量 NA
乾燥重量 475kg
エンジン 電気モーター
最高出力 17bhp
最大トルク 5.8kg-m/2100rpm
ギアボックス なし

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