3気筒エンジン対決

公開 : 2015.01.05 23:50  更新 : 2017.05.29 19:51

フォード・フォーカス1.0Tエコスブースト
BMW 218iアクティブ・ツアラー
プジョー308SW 1.2 e-THPピュアテック
ヴォクゾール・コルサ 1.0 SGE
ルノートゥインゴ 0.9 TCe

近現代のモータリング史は、なにもエンスージアストが手放しに受け入れられる技術的トレンドに満ち溢れているわけではない。

可能ならば、スタート-ストップ・システムやエレクトリック・パワー・ステアリングがなくなってくれやしないか……と実は時に筆者も思ったりする。しかしダウンサイジングされた3気筒ターボ・ガソリン・エンジンだけは例外。高効率化の風潮における、褒め称えらえるべき革新的なアイデアだと思うのだ。

過去3年を遡ってみると、筆者の知る限り、パワートレインの展開数よりも急速に、3気筒ユニットはヨーロッパ生まれのモデルに採用されているのではないだろうか。なぜこれほどまでに、各社がこぞって3気筒ユニットを採用するのかを、英国はエセックス州ブレントウッドにある小さな駐車場で、アンドリュー・フレーザー氏が教えてくれた。

同じエセックス州のダントンにあるフォードのテクニカル・センターのパワートレイン開発マネージャーである氏は、2012年に始まった1.0ℓエコブースト・エンジンの開発におけるキーマンでもあるのだ。”これほどまでに急速に3気筒エンジンが展開されたのは、なにも重量や排気量が理由だけではないのです” とフレーザー氏。”回転バランス、熱効率、スペース、ターボとの相性など様々な事象が複雑に絡み合っているのです”

”実は4気筒に比べて3気筒の方が副次的な振動は遥かに小さいのです” と説明を続ける。”したがって振動を抑制するために用いるバランス・シャフトを用いる必要性もグッと減ってくるだけでなく、4気筒に比べてコンロッドを短くすることもできます。その結果小さなスペースにエンジンをおさめることができるのです” と非常にシンプルに分かりやすく教えてくれた。

排気量はそのままにシリンダー数を少なくすることにより、クランクシャフトが1度周転するごとのエギゾースト・パルスがわずかで済むため、熱量とともにエネルギー損失を低減することができる。そのうえターボ加給や冷却が簡単になる。という点も付け加えておこう。

以上の理論が実際に乗った際にもメリットをもたらすのかどうかを調べるために、過去3年の間に作られた新世代3気筒ターボ・ユニットを載せた5台のモデルを比較することにした。各モデルのメーカーはもちろん所属する市場もできる限り違ったものにすることにより、様々なバリエーション試してみようというわけだ。

なかでもルノー製の898cc 3気筒ターボが最も小さいユニットとなり、こちらはシティー・カーとして2014年に注目を集めたトゥインゴの後部に搭載される。またもっとも大きいユニットはBMW製1499ccユニットとなり、BMW218iアクティブ・ツアラーに搭載されるこれは、サイズ、重量ともに5機中最大だ。

もっとも若いエンジンは最新のヴォグゾール・コルサに搭載されるものでゼネラル・モーターズが開発したSGE(スモール・ガソリン・エンジン)999cc 3気筒。その他にプジョー308 SWに搭載されるプジョー-シトロエン製1199ccピュアテック・ユニットも用意した。

もちろん忘れてはならないのが、3年続けてインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞したフォード製1.0ℓ エコブースト。フェイスリフトしたばかりのフォーカスに搭載することにより、その実力を死守する。なお最新版はデビューしたばかりのため、こちらの車両のみ左ハンドル仕様となる。

本来ならばモンデオを借り受けたいところだったけれど、ラインナップに加えられるのはもう少し後になるとのこと。同時にフレーザー氏は、多くのエンジニアは1.5トンのクルマに1.0ℓエンジンを搭載することなど馬鹿げていると明言していた20年前の情勢を穏やかに思い出させてくれた。

よって今回のラインナップにおける最高出力の幅は90psから136ps。最大トルクの幅は13.8kg-mから23.5kg-m。CO2排出量は99g/kmから115g/kmということになる。ただしこれらはあくまでも額面上の値だ。

エコブースト・エンジンが設計されたフォードのダントン・テクニカル・センターから、BMWのエンジンを制作するハムズ・ホール工場までの800kmにおよぶ区間を、北ウェールズにあるお気に入りのテスト・コースを交えながら走らせることにより、 現実的な使用用途に近い環境で評価をしていこうと思う。

このテストが終わったころには、いまどのメーカーが最も優れた3気筒をユニットを作っているかが分かるはずだ。グローバル・スタンダードとなるのはどのメーカーなのか、またもっとも説得力のあるユニットはどれなのか。またどれほどの説得力をもつのかも調べていこうではないか。

性能

エンジン性能とひとえに言えども、パワー・デリバリーの甲乙のみでなく、レスポンスや使える回転域の広さ等もチェックする必要があるため、北にのびるM1モーターウェイを走らせることにした。

そこでひとつの問題が発生。性能を比較するうえでエンジンの回転数を考慮する必要があるのだけれど、トゥインゴにはレブ・カウンターそのものがついていないのだ。

最高出力がどれくらいの回転域で紡ぎだされ、どのようなトルク・カーブを描くのかを目で見て確かめたい向きには残念な事実である。なにも凝ったつくりのメーターを求めているわけではない。シンプルで一般的なタコ・メーターを設えてくれないだろうか。

閑話休題。短く硬く、バランスのとれたクランクシャフトはどの3気筒エンジンにも驚くべき質感を与えてくれる。4気筒ならば2500-4000rpmあたりで生じてしまう、体感できるほどの二次振動も3気筒では看取されない。コンロッドの傾斜やピストン・スピードの変動による内在的な欠点が覆い隠され、またより高速にスピンすることにより良い影響が与えられるからだ。

実際のところトゥインゴのエンジンは5台中もっとも非力ではあるけれど、回転フィールはスムーズそのもの。いちばん美味しい2500rpm前後ではターボの助力も相まって、ふんだんなトルクを与えてくれる。

高回転域におよぶ高らかな回転フィールを期待すべきではないし、5500rpmからうえでは徐々に力を失う傾向にあるが、生き生きとしたキャラクターであるがゆえにアクセルを踏んでいて楽しい気持ちになることは間違いない。

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