米国随一の自動車メーカー『フォード』の裏側(前編) 膨大な資料が眠るアーカイブへ潜入 「実話の方がもっと面白い」

公開 : 2026.06.07 11:25

デトロイトにあるフォードのアーカイブには、同社の豊かな歴史を物語る膨大な量の文書、資料、その他の品々が収蔵されています。これらを管理するマネージャーにインタビューし、その役割や重要性について聞きました。

炭酸飲料から自動車の世界へ

テッド・ライアン氏が初めてフォードのヘリテージブランドマネージャー就任を打診された時、彼は興味をそそられつつも躊躇した。

熱心なクルマ好きというわけではなかった。歴史的なマスタングとリンカーンを所有する父親も、親友もクルマ好きであり、2人とも「クルマには素晴らしい物語が詰まっている」とライアン氏を説得しようとした。しかし、ライアン氏は当初、こう言い返していた。「僕にはサンタクロースとポーラーベア(コカ・コーラのマスコットキャラクター)がいるんだ」

フォードは自社の歴史的文書や資料、物品の数々を「ヘリテージ」として保管している。
フォードは自社の歴史的文書や資料、物品の数々を「ヘリテージ」として保管している。

2018年にフォードに入社するまでの21年間、ライアン氏はコカ・コーラのアーキビスト(アーカイブ担当者)を務めていた。

「コカ・コーラは世界最高のブランドの1つです。サンタやポーラーベアだけでなく、ノーマン・ロックウェルの絵画、赤い色、そして秘伝のレシピもあります」とライアン氏は熱く語る。

しかし、炭酸飲料が1つの文化遺産になっているのと同様に、フォードもまた文化に深く根付いている。そしてライアン氏には、アーカイブ担当者兼ヘリテージブランドマネージャーという新たな役職が提示された。

「彼らはわたしに、ヘリテージをブランドとして扱うことを求めていました。コカ・コーラではやっていなかったことです」

アーキビストの仕事内容とは

ライアン氏は納得し、サンタを辞めることにした。アーキビストにとって、フォードの歴史を掘り下げることは、まるで毎日クリスマスを体験しているようなものだったからだ。

「例えば、ル・マン24時間レースでの優勝です。あの映画(『フォードvsフェラーリ』)は素晴らしいですが、あくまでフィクションです。実話の方がもっと面白い」

フォードのヘリテージブランドマネージャー、テッド・ライアン氏
フォードのヘリテージブランドマネージャー、テッド・ライアン氏

「マスタングやF-150、あるいは英国でのトランジットの誕生秘話もあります。トランジットには驚くべき物語があり、ドイツと英国のフォードによる共同事業でした。両社は協力する気などありませんでしたが、ヘンリー・フォード2世が両者を説得し、共通の絆を築かせたのです。そして今や、『白いバンの男(White Van Man)』は英国文化の大きな一部となっています」

ライアン氏の話は目まぐるしく、壮大だ。大陸を跨ぎ、数十年にわたるフォードの歴史をシームレスに行き来し、社会的文脈まで織り交ぜて語られている。これはアーキビストとして典型的な仕事と言えるだろう。一見平凡な情報の山を掘り下げ、歴史を凝縮し、まとまりのある魅力的な物語へと昇華するのだ。

「クルマ自体は好きですが、いわゆるクルマオタクというわけではありません。ただ、その物語は素晴らしい」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

米国随一の自動車メーカー『フォード』の裏側の前後関係

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