陸上を突き進む凶暴な「ウツボ」 ベースは7.0L V8のサンダーバード ムリーナ429GT(2)

公開 : 2025.04.18 18:06

ノーズを持ち上げながら豪快に加速

7.0L V8エンジンは、アクセルペダルの僅かな動きへしっかり反応。加速力は笑えるほど豪快で、不安もつきまとう。ベースのフォード・サンダーバードより、車重は454kgも軽いらしい。

3速ATは、大きなハンマーのようなレバーで操る。Dのままでも、息を呑むほど俊足。パワーボートのように、テールを沈めノーズを持ち上げながら、速度が増していく。発進時に、リアタイヤを空転させながら。

ムリーナ429GT(1969〜1970年/北米仕様)
ムリーナ429GT(1969〜1970年/北米仕様)    リチャード・ヘーゼルタイン(Richard Heseltine)

カタログ上の最大トルクは、66.2kg-m/2800rpm。高回転型ユニットと異なり、回転の上昇を待つことなく加速へ移れる。スピードメーターは、時速180マイル(約289km/h)まで振られている。

そのかわり、エンジンは重い。カーブでの反応は、機敏とはいえない。ブレーキは、前がディスクで後ろはドラムで、制動力が頼もしいほど強いわけではない。操縦性が悪いとまではいえないものの、全体的には薄味で曖昧だ。

低速域では、実際以上に大きく重く感じられる。少し気張ると、予想通りフロントタイヤが路面を掴みきれず、アンダーステア。旋回が始まると、明確に荷重が移動する。テールが暴れないよう、パワーオンのタイミングは正確に図る必要がある。

試乗したマン島の道幅は狭い。石垣で覆われているが、429GTの進路が乱れたら、コテージの1・2軒をなぎ倒す可能性はある。広く真っ直ぐな、アメリカの高速道路をおおらかに走らせるべきクルマといえる。

陸上を突き進む真っ黒で凶暴なウツボ

新車時に試乗したロード&トラック誌は、走行中の振動音が大きいと指摘していた。このクルマは建付けが良いのか、きしむような音は聞こえてこない。乗り心地は、現代的なスポーツサルーンより遥かにしなやか。路面の凹凸を、綺麗に均してくれる。

人間工学が優れるわけではなく、手の届く範囲にスイッチはない。それでも、ステアリングホイールは膝に当たらず、メーターは読みやすい。しっかり外界も見渡せる。

ムリーナ429GT(1969〜1970年/北米仕様)
ムリーナ429GT(1969〜1970年/北米仕様)    リチャード・ヘーゼルタイン(Richard Heseltine)

至って破天荒なシューティングブレークだが、うっかり好きになってしまう個性がある。数時間ともにすれば、アメリカ大陸など簡単に横断できそうに思えてくる。不足ないガソリン代を準備できれば。

エンジンは、味わい深いイタリアンV12ではないものの、頑丈なアメリカンV8だ。ハンマーで叩いて、直せるかもしれない。

新車当時にライバル不在といえた429GTだが、今でも匹敵するようなモデルは思い浮かばない。完璧とは程遠いかもしれないが、運転は面白い。タイヤスモークを漂わせながら、陸上を突き進む真っ黒なウツボ。その凶暴さに、つい笑顔が湧いてしまう。

協力:ダレン・カニンガム氏、スティーブ・グリン氏

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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