シナトラにサミー・デイビス Jr.も購入? 6.4mのシューティングブレーク ムリーナ429GT(1)
公開 : 2025.04.18 18:05
インターメカニカによる巨大シューティングブレーク スポーツカーの性能とワゴンの実用性を融合 ベースはサンダーバード 7.0L V8の怒鳴るような轟音 英編集部が10台限りの希少車をご紹介
イタリア製の巨大なシューティングブレーク
グレートブリテン島の西に浮かぶ、小さなマン島。海岸線へ打ち寄せる波音と、空を舞うカモメの鳴き声に包まれた、静かな浜辺へやってきた。遠くへ見える灯台の中には、フォーミュラ5000のマシンが飾られているものの、クルマの姿も見当たらない。
風化しつつある古城には、銃口を突き出す穴が開いている。紛争に巻き込まれた歴史を物語るが、今はそれを忘れさせるほど穏やかだ。ここを待ち合わせ場所にしたのは、名案だった。初対面の印象が、強調されるから。

見慣れない容姿が視界へ現れる前から、プッシュロッドのV8エンジン・サウンドがこだましてくる。低く長いボディが、駐車場へ滑り込んでくる。フルサイズ・アメリカンと呼べるほど巨大なシューティングブレークは、イタリア製だ。
シャシープレートを確認すると、北西部のトリノで製造されたことが明記されている。ブランドのルーツはアメリカ・ニューヨークにあるが、運転席側のサイドシル・プレートには、インターメカニカと刻印されている。
アイデアを実現するため、しばしば異論を巻き起こしてきたイタリアの企業へ、製造は委託されている。ポルシェ356やキューベルワーゲンのレプリカで、ご存知の読者もいらっしゃるだろう。
スポーツカーの性能と、ワゴンの実用性を融合
ムリーナ・モーターズというブランド名と、429GTのモデル名を決めたのは、裕福な家庭に生まれたチャーリー・シュウェンドラー氏。彼の父は、戦闘機を量産していたグラマン・エアクラフト社の創業者の1人だった。
シュウェンドラーの協力者になったのが、マーケティングの知識を有したジョセフ・フォス氏。2人は相当なカーマニアで、冬にはスキーへ夢中になったらしい。

雪が降る山岳部のリゾート地へ、自身のスポーツカーで向かうことは不可能ではなかった。シュウェンドラーは、ポルシェを特に好んだ。しかし、スキー道具はルーフへ括る必要があった。
ステーションワゴンを用意することも、可能だったに違いない。それでも、道中の運転を楽しむことも諦めたくはなかった。
そこで2人は考えた。スポーツカーの走行性能と、ステーションワゴンの実用性を融合したクルマを作ってはどうか。1968年2月、スイス・アルプス山脈での休暇を少し早めに切り上げて、フォスはトリノへ向かった。
フランク・ライスナー氏によって設立されたインターメカニカ社は、その頃に驚くほど多様な少量生産モデルを提供していた。シュタイアー・プフがベースの小さなスポーツカーから、シングルシーターのレーシングカーまで。
フォード・マスタングを、シューティングブレークへ改造した例もあった。このアイデアを、同社は快く実現してくれると期待したに違いない。ところがフォスは税務調査官と勘違いされ、当初は歓迎されなかったらしい。