陸上を突き進む凶暴な「ウツボ」 ベースは7.0L V8のサンダーバード ムリーナ429GT(2)
公開 : 2025.04.18 18:06
インターメカニカによる巨大シューティングブレーク スポーツカーの性能とワゴンの実用性を融合 ベースはサンダーバード 7.0L V8の怒鳴るような轟音 英編集部が10台限りの希少車をご紹介
霊柩車のようにも見える6.3mのワゴン
ムリーナ429GTの前にあった道のりは、極めて険しかった。仮に多くの注文を集められたとしても、信頼性の高い部品を提供するサプライヤーは限られていた。当時のイタリアは、政治的にも産業的にも混乱期にあり、生産は断続的にしか進まなかった。
結果として、品質管理と納車計画はまったく安定しなかった。購入の意志を伝えても、納期は6か月後かもしれないが、9か月後かもしれないと説明されたとか。

インターメカニカ社とチャーリー・シュウェンドラー氏、ジョセフ・フォス氏のチームは10台を生産。そこで白旗が挙げられ、プロジェクトには終止符が打たれた。最後の429GTがラインオフしたのは、1970年。3月に一部の自動車雑誌で紹介されている。
今回ご紹介するブラックの429GTは、1969年12月に完成した1台。当初のオーナーは不明だが、来歴とは関係なく、初対面で受ける衝撃は半端ない。全長は6350mm、全幅は1930mmもあるのに、全高は1270mmと驚くほど低いからだ。
2ドアのシューティングブレークは、呆気にとられるほどワイド&ロー。ボディカラーのおかげで、霊柩車のように見えなくもない。スタイリングはシンプルで、装飾は最小限。ボディサイドの低い位置に、クロームメッキのトリムが伸びる。
7033ccのV8は365ps 怒鳴るような轟音
1960年代の少量生産車らしく、インテリアには未完成感が漂う。イエーガー社製のメーターが整列しているものの、ダッシュボードは不自然にフラットで、固定用ボルトがセンターコンソールに露出する。
ステアリングホイールはナルディ社製だが、スイッチ類は当時のフォードからの流用。その1つを押すと、細長いリアウインドウが下方へ落ちる。ステアリングボス部分には、ムリーナというブランド名の由来となった、蛇のような魚のロゴが記されている。

フォスは1969年のある日、イタリア・トリノのレストランでシーフード・サラダを注文した。それに含まれた食材の1つがわからず、同席していた知人へ尋ねると、サルディーニャ島で穫れる凶暴なウツボだと教えてくれたらしい。その名が、ムリーナだった。
運転席からの眺めにイタリアン・エキゾチックらしさは薄いが、エンジンを始動させれば、ボディへ隠れていたフォード・サンダーバードが表出する。資料によれば、7033cc(429cu.in)のV型8気筒エンジンは、365psを発揮するという。
今回の429GTには、僅かに手が加えられているが、正確な馬力はわからないそうだ。防音性が低いためか、怒鳴りつけられるような轟音が前方から響いてくる。巡航時はウゴッウゴッウゴッと聞こえるが、右足を傾けると図太く吠え始める。