【現役デザイナーの眼:トヨタ・クラウン・エステート】シンプル? 淡泊? 高級感は健在

公開 : 2025.05.05 08:05

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が「今時の大人にもってこいのクルマ」と評価するトヨタ・クラウン・エステート。クラウン4車種それぞれの特性と共に、デザインを掘り下げます。

高級車に不向きな構成も成立させてしまうトヨタ・デザイン

クラウン』という名前が車名からブランド名に大転換して、すでに3年近く経ちました。グローバルモデルが主流の高級セダン市場において、ほぼ日本専売だったクラウンは淘汰される運命だと感じていたのですが、発想の転換とも言える大胆な戦略にトヨタの凄さを感じたものです。

今回『クラウン・エステート』が発売され、4車種が出揃いましたので、エステートのデザインの解説とともに、クラウン・シリーズ全体の印象をお伝えします。

大きな前後フェンダーにより、ドア面のリフレクションが『ハの字』に揺れる。通常は真っ直ぐな部分がある方が『軸』を感じやすい。
大きな前後フェンダーにより、ドア面のリフレクションが『ハの字』に揺れる。通常は真っ直ぐな部分がある方が『軸』を感じやすい。    トヨタ

クラウン・エステートは、SUVとステーションワゴンの融合とも言える特徴的なプロポーションをしています。

タイヤ、ボディ、キャビンのそれぞれの比率はまさにSUVのそれなのですが、リアオーバーハングがクラウン・スポーツより100mm長く、これが普通のSUVに比べて伸びやかに見えるポイントです。これにより荷室の奥行きがステーションワゴン並みに確保されました。

デザインにおいて最大の特徴は、ボディサイドの立体構成です。

前後フェンダーを大胆に扱い、ドア一般面のほとんどが覆い被された構成は、普通に考えると大型の高級車には不向きなデザインです。大きな前後フェンダーの影響でドア面の『リフレクション』が揺れるので、高級車に必須の『強い軸』が通って見えません。

しかし、このクルマはフロントのシルエットやグリル付近の造形とフロントフェンダーのピークを関連させていたりして、なるべく一体感のある造形をしようとしています。この辺りはさすがトヨタで、普通やらないことも成立させてしまう底力を感じますね。そういう点ではとても攻めているデザインと言えます。

クラウン・シリーズは、4車種それぞれが特徴的なデザインになっています。その中で『クロスオーバー』と『スポーツ』は、トレンドでもある前後の大きな2つの立体が嵌合した構成なのですが、『セダン』は伝統的な手法で前後にドア面を貫いています。

そして前述の通り、他社ではやらないような構成の『エステート』が加わり、造形の引き出しの多いトヨタならではのラインナップとなりました。

シンプルを貫いたフロント、リア周りのデザイン

クラウン・シリーズの顔まわりには、トヨタ車で広く使われている『ハンマーヘッド』と呼ばれるデザインが採用されています。薄くワイドなランプの下にグリルを配置するこの構成は、こちらも高級車の定番からは外れるもの。一般的に、高級車の顔まわりは大きなグリルを中心に組み立てられ、歴代クラウンの多くもその王道を踏襲してきました。

しかし、ハンマーヘッドを取り入れたことで、グリルはランプのかなり下に配置されることになり、車格の演出には工夫が必要になっています。それにもかかわらずクラウンはしっかり高級感を感じさせているのは、さすがだと思います。

近年のトヨタ車の中でも最もシンプルなリア周り。リアゲートガラスの角度は、ワゴン過ぎない角度を吟味したのだと感じる。
近年のトヨタ車の中でも最もシンプルなリア周り。リアゲートガラスの角度は、ワゴン過ぎない角度を吟味したのだと感じる。    トヨタ

ただ、グリル部は、シンプルに見せたい意図は分かるのですが、ユーザー像的にはもう少し主張しても良いのでは、とも感じました。

リアデザインに関しても非常にシンプルな仕上がりになっています。ここ10年くらいのトヨタのデザインは、面白い造形が多い反面、ややディテールがうるさいと感じたりしていました。しかしこのエステートに関してはそのような目につくディテールは皆無です。特にリアバンパーコーナーをここまで素直にデザインされているトヨタ車も珍しいですね。

一方で、リアコンビやバンパーなど、構成されるモチーフが全て並行なので、やや淡白にみられるかもしれません。

全体として、大胆なモチーフを取り入れながらも、他のクラウンに比べて薄味だと感じたりもします。もしかしたらSUVとステーションワゴンを融合したようなプロポーションが、やや中途半端に見えているのかもしれません。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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