広電から都営バスまで クルマやバイク以外でも味わえる輸入車たち【森口将之の『もびり亭』にようこそ 第17回】

公開 : 2026.02.11 12:05

モビリティジャーナリストの森口将之が、モビリティに関するあらゆる話題を語るこのブログ。第17回は、出会えるとちょっと嬉しい公共交通機関の輸入車についてです。

きっかけは『グリーンムーバー』

毎年2月は、輸入車関連の記事が多くなります。理由はご存知の人もいるかと思いますが、毎年この時期に日本自動車輸入組合(JAIA)主催の試乗会が行われるからです。そこで今回は、クルマやバイク以外の移動手段、つまり公共交通分野の輸入車を取り上げましょう。

といっても、鉄道分野では輸入車はほとんどありません。新幹線を見ればお分かりのように、日本の鉄道は技術水準が高く、使い終わった車両を新興国に譲渡しているぐらいで、外から車両を入れてくる必要は基本的にないからです。

原爆ドームの脇を抜け宮島口に向かう広島電鉄5000形。
原爆ドームの脇を抜け宮島口に向かう広島電鉄5000形。    森口将之

しかし、例外もあります。そのひとつが広島市内を走る路面電車、広島電鉄で1999年から運行している5000形です。

人口100万人を超える我が国のメガシティでは珍しく地下鉄を持たない広島市は、路面電車が都市交通の主役。広島電鉄では21世紀を前に、低床や低騒音、低振動などに配慮し、輸送力や速達性に優れた、いままでの路面電車のイメージを一新する車両を導入しようと考えました。

日本の低床型路面電車は、2年前に熊本市電(熊本市交通局)が、ドイツのアドトランツ社のメカニズムを使い国内製で組み立てた車両を導入したばかり。つまり、純国産の低床車両の経験はありませんでした。

しかも熊本市電の車両は全長約18mと短め。そこで同じドイツのシーメンス製車両を導入ということになったようです。全長は30.52mで、日本の法律の上限である30mを少しだけオーバーしていましたが、特例で認めてもらいました。

『グリーンムーバー』という愛称とともに走りはじめたこの5000形がきっかけになって、国産低床車両の開発が始まり、広島電鉄でもその後は30m級を含めて、日本製低床車が次々に導入されるようになりました。黒船的な存在だったと言えます。

さよなら『ドレミファインバーター』

一方で5000形は、近々引退の噂も出ています。理由として考えられるのが、日本車と比べると故障が多いうえに、部品の入手に時間がかかるというもの。

シーメンスと言えば、首都圏を走る京浜急行電鉄の一部の車両に、同社製のモーターやインバーターが使われたことがありました。さらに写真の2100形では北欧製の座席を採用するなど、外国製部品を積極的に取り入れていました。

シーメンス社の機器を搭載していた京浜急行2100形。
シーメンス社の機器を搭載していた京浜急行2100形。    森口将之

このうちインバーターは、発車時に音階を奏でるような音を発することから、『ドレミファインバーター』と呼ばれ、親しまれていました。しかしながら広島電鉄と似たような理由で、徐々に国産の機器に載せ替えられていきました。

しかも2019年には、シーメンスの鉄道事業が日本から事実上撤退しました。こうした状況では、引退の噂が出るのも仕方ないと言えるのではないでしょうか。

自分を含めた非ドイツ系輸入車ユーザーにとっては、どこかで聞いたことがあるようなエピソードに思えるかもしれません。でも公共交通は、「次の休みの日に整備工場に持っていけばいいや」で済むはずはありません。

とりわけ日本の鉄道は時間に正確であることが世界的に評価されているうえに、利用するわれわれ日本人も真面目であり、トラブルによる遅れや運休は許されないという空気があります。となれば、故障が少なく部品もすぐ届く日本製を使うようになっていくのは理解できるところです。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。

森口将之の『もびり亭』にようこその前後関係

前後関係をもっとみる

おすすめ記事

 

人気記事