エリザベス女王やローマ教皇を乗せた過去 ロールス・ロイス・ファントムIII(2) 不気味なほど静寂 発注者は道楽息子

公開 : 2026.10.25 17:50

シュナイダー・トロフィーの知見が活きるV12エンジンを積む、ロールス・ロイス・ファントムIII。インドの王家が注文し、エリザベス女王やローマ教皇を乗せた過去を持つ1台を、UK編集部が紹介します。

エリザベス女王やローマ教皇を乗せた過去

アザム・ジャー氏が、ロールス・ロイス・ファントムIIIで希望したボディは、カブリオレのランドーレット。趣味が狩猟で、銃用のホルダーやライトなどが追加されていた。しかし、ギャンブル好きの道楽息子で金遣いが荒く、父親から見放されていたらしい。

ロンドンで贅沢三昧の暮らしを送っていたジャーだが、後にファントムIIIは手放される。1956年に、ポルトガルのクラヴェイロ・ロペス大統領の指示を受け、政府がロンドンで購入している。1957年2月の英国エリザベス女王の来訪へ、備えたものだった。

ロールス・ロイス・ファントムIII(1937年式/ウィンドオーバーズ・ボディ)
ロールス・ロイス・ファントムIII(1937年式/ウィンドオーバーズ・ボディ)    ルイス・ドゥアルテ(Luis Duarte)

1961年には、アメリカのアイゼンハワー大統領も乗車。1967年にローマ教皇パウロ6世が乗った際には、前端のスピリット・オブ・エクスタシーは外され、グリルは控えめに塗装され、バチカンの旗が取り付けられていた。

以降、数10年に渡りポルトガルで活躍し、カラムロ自動車博物館へ寄贈される。驚くことに、これまで一度もレストアされていないそうだ。エンジンのオーバーホールも。

聴覚的な違和感を覚え不気味なほど静か

漆黒のボディを目の当たりにすると、積み重ねられた歴史を感じずにいられない。経年劣化で得た適度なヤレ感が、特有の趣を漂わせる。堂々とした威厳とともに。

言葉を失うのが、7.3L V12エンジンのスムーズさ。アームチェアのような豪奢なシートへ腰を掛け、イグニッションスイッチを入れ目覚めさせても、後席の人は殆ど気付かないだろう。車内は静かすぎるほどで、聴覚的な違和感を覚え、不気味なほど。

ロールス・ロイス・ファントムIIIに乗り手を振る、ローマ教皇パウロ6世
ロールス・ロイス・ファントムIIIに乗り手を振る、ローマ教皇パウロ6世    ルイス・ドゥアルテ(Luis Duarte)

シフトレバーは右足の横。ガシンという音とともに1速を選び、ゆっくり発進させる。エンジン音を聞かせないまま、極低速から、いとも簡単に速度は上昇。車重は3tあるが、太いトルクで坂道を粛々と登っていく。

4速MTはオールシンクロだが、慌てた変速は受け付けない。シフトダウンには力もいるが、ゆったり走らせるのが正しい。ステアリングレシオは、ロックトゥロックが3.3回転。低速域では恐ろしく重たいが、速度と反比例するように軽くなる。

極上の快適性へ包まれ安楽に運転できる

セルフセンタリング性は弱く、左右へ細かな修正が常に必要。走行中に耳へ届くのは、かすかなタイヤノイズくらい。フロントグリル上のマスコットと、はためく旗が、ロールス・ロイスを運転しているという高揚感を増長する。

ブレーキには機械式サーボが備わり、驚くほど効く。前後のサスペンション・ダンパーは油圧で自動的に制御され、乗り心地は1930年代としては素晴らしい。速度に応じて姿勢制御はタイトに転じるが、ステアリングホイール上のレバーで調整もできる。

ロールス・ロイス・ファントムIII(1937年式/ウィンドオーバーズ・ボディ)
ロールス・ロイス・ファントムIII(1937年式/ウィンドオーバーズ・ボディ)    ルイス・ドゥアルテ(Luis Duarte)

見通しの良い直線で加速すれば、音響的な感覚を欠いたまま、卓越した余裕の中で堂々と急げる。充分な空間さえあれば、極上の快適性へ包まれ安楽に運転できる。

アクセルペダルを全開にしても、騒々しさとは無縁。機敏なわけではないが、優しい風切り音へ包まれ、滑るように突き進んでいく。狭い道や低速域では降りたくなるが、ファントムIIIへ贈られてきた多くの賛辞へ強く同意できる。

協力:サルバドール・パトリシオ・ゴウヴェイア氏、カラムロ自動車博物館、アデリーノ・ディニス氏
撮影:ルイス・ドゥアルテ(Luis Duarte)

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 撮影

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の英国の自動車雑誌『AUTOCAR』(1895年創刊)。
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ロールス・ロイス・ファントムIIIの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

Google検索で『AUTOCAR JAPAN』の記事を見つけやすくする方法