「路上移動の究極形へ最も近い」 ロールス・ロイス・ファントムIII(1) V12に活きるシュナイダー・トロフィーの知見
公開 : 2026.10.25 17:45
シュナイダー・トロフィーの知見が活きるV12エンジンを積む、ロールス・ロイス・ファントムIII。インドの王家が注文し、エリザベス女王やローマ教皇を乗せた過去を持つ1台を、UK編集部が紹介します。
もくじ
ー小回りが効かず死角は広く、大きな船のよう
ーシュナイダー・トロフィーの知見が活きたV12
ー最高出力は初期型で162ps、1938年仕様で182ps
ー「路上移動における究極形へ最も近い」
ー売れるほど赤字を生んだファントムIII
小回りが効かず死角は広く、大きな船のよう
ロールス・ロイス・ファントムIIIの運転は難しい。小回りが効かず、運転席からの死角は広く、大きな船のよう。構えるのをやめたカメラマンが、心配そうに見つめている。
すれ違うのがギリギリな道で、キャンピングカーとの正面衝突を交わしたかと思ったら、その先は行き止まりだった。右手は断崖絶壁という場所で、方向転換。リバースギアのゲートを、シフトレバーで探り出すことすら簡単ではない。

巨大なステアリングは、ウンザリするほど重い。切り返しを何度も繰り返し、腕はパンパン。神経もすり減らした。当時の運転手は、こんなクルマを平然と走らせていたのだから感服する。王族や大統領を乗せて。
シュナイダー・トロフィーの知見が活きたV12
ロールス・ロイスが、ベントレーを劇的な展開で傘下に収めたのは1931年。破産手続きが進められる裁判所で、弁護士がベントレーとネイピアの間で合意されていた金額を凌駕する資金の用意があると主張し、合併計画を中止へ追い込んでいる。
この買収で、ファントムIIの後継モデルには、ベントレーの8.0L直列6気筒エンジンが搭載されると予測する人もいた。だが、WO.ベントレー氏の提案は1つも採用されることがなかった。単に、ライバルの排除を企てただけに過ぎなかった。

妥協のない高みを追求し続けたロールス・ロイスは、1930年代には世界最高のクルマと呼ばれていた。このファントムIIIが、晴れの舞台で活躍するランドーレットとなったのは、ポルトガルへ運ばれてから。最初のオーナーは、遊び人のインド人だった。
1935年11月のロンドン・モーターショーでお披露目された、ファントムIIIが動力源としたのは、アルミ製のV型12気筒エンジン。飛行艇によるレース、シュナイダー・トロフィーで勝利した、スーパーマリンS.6BのR型エンジンで得た知見が活かされた。
最高出力は初期型で162ps、1938年仕様で182ps
寸法的には、それまでのロールス・ロイス 20/25が積んだ、直列6気筒エンジンを2基並べ、1本のクランクシャフトで結んだだけともいえた。しかし構造は複雑で、点火プラグは24本。7338ccという大排気量の、極めて高度で洗練されたユニットだった。
最高出力は明かされず、「充分」と表記されるに留まったが、確かな自信が裏付けとしてあった。後年のテストによると、初期型で162ps。4ポート・シリンダーヘッドを得た1938年仕様では、182psを発揮した。

ただし、高速走行を長時間続けると、オーバーヒートへ至りやすかった。その原因の1つが、定期的に内部洗浄をする必要があったオイルクーラー。硬水の地域では、ラジエターに堆積物も溜まりやすかった。タペットの構造上、カムシャフトの摩耗も早かった。
シャシーは、補強用の十字ブレースを備えた新設計。GMの技術を展開した、独立懸架サスペンションが前に採用されていた。












































































































