フォード・パフォーマンス 比較試乗 GT×フィエスタST 瑠璃色の血統

公開 : 2018.11.04 07:40  更新 : 2018.11.08 16:29

モータースポーツのために生まれたGT

といっても、大部分で見えてくるのは差異の方。フィエスタSTの着座姿勢はアップライトで、視界はすべての方向で優れている。反面GTの着座姿勢は寝そべるかたちで、視界も高さの薄いフロントガラスから、進行方向が見える程度。フィエスタSTでは何でもない路面の凹凸が、GTで走ると巨大なものに感じられる。

GTのすべてが、モータースポーツを主張してくる。そもそも、幾らか一般道でも乗れるように民主化されてはいるものの、ル・マン24時間レースで戦うために設計されたモンスターマシンだから、当然かもしれない。むしろ、このクルマはモータースポーツがなければ存在しなかっただろう。

今から約50年前、4度に渡って世界で最も過酷な耐久レース、ル・マン24時間レースで勝つことがなければ、民主的なブルーオーバルのロゴの自動車メーカーが、ここまで高価なスーパーカーの生産計画書にハンコを押すことはなかったはず。また、そんな勝利の歴史が存在しなければ、よほどの物好きでもない限り、50万ポンドもの大枚をはたいて、使い勝手の悪いクルマを買うことはないだろう。

あくまでも、GTはモータースポーツから生まれたというより、モータースポーツのために生まれたクルマ。フェラーリマクラーレンが、スーパーカーを日常的に利用しやすいクルマにするべく腐心する最中、フォードはまったく別の方向を向いていた。妥協のない生粋のサーキット・モデル。毎日乗るには、マゾっ気がないと厳しいとさえ思う。スーパーカーといえども定期的にドライブしたいし、日常的に乗るクルマとの違いを体感するためにも、スペシャルなものを備えている必要がある。そのサジ加減が難しい。

うっかりキャッツアイを踏んでしまった時の激しい衝撃や、蹴り上げた小石がホイールアーチを叩く音、V6エンジンに組み合わされるツインターボが生み出す激しい吸気音と、ブローオフの悲鳴。GTから目まぐるしく耳に届くサウンドスケープに、思わず笑みがこぼれてしまう。没入せずにはいられない、シリアスなドライビング体験は、今の時代非常に珍しい。

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