新たな人生のスタート カルタ・ラリー ダチア・ダスターと傷痍軍人たちの挑戦

公開 : 2019.05.19 18:50

逆境こそチャンス

10時間ものあいだ、ほぼノンストップで極度の集中が必要とされるタフな1日であり、脚の障害に加えPTSDと戦うジョージ・フロストは、ほぼ丸1日ステアリングを握り続け、疲労困憊していたが、その興奮はまだ収まっていないようだった。

コース途中でストップしたダスターが車両回収トラックから降ろされ、残り2台のうち1台にもラジエータートラブルが見つかると、メンバーのリーダーを務めるショーン・ホワットリーは明らかに困惑した様子だったが、かつて、銃弾が飛び交うなかで、戦車の修理を行っていた彼にとって、ダスターのラジエータ修理が困難な任務だろうか? そんなことはあり得ない。

問題はラジエータを固定しているボルトにあり、圧力で粉々に粉砕され、泥によって、ラジエータ内部へと押し込まれていた。乾燥していれば、何も問題にはならなかっただろう。修理方法は明らかだったが、予備のボルトが手元になく、応急処置しかしていないラジエータで2日目のコースへと送り出すことは、さらなる重大なダメージに繋がるリスクがあった。

ダチアはモロッコでもっとも人気のブランドだが、現地仕様のダスターはまだEURO 6には適合しておらず、ボルトの種類が違うのだ。交換用ボルトを手配したものの、届くには24時間以上が必要であり、チームは2日目のレースへの出走取り止めを決断している。

その夜遅く、ホワイトがこの決断をチームに伝えたが、誰も不平や不満を言うものはおらず、翌朝、なぜか晴れ渡った青空の下、チームは新たな任務に取り組んでいた。車両のチェックや、増し締めなどを進めるこのチームは、どんな状況も無駄にすることなく、新たなトレーニングや能力開発の機会として活かすつもりのようだ。

だが、皮肉にもこうした時にこそ、フューチャー・テレインの真の姿を見ることができる。「実際の仕事に役立つトレーニングというものを重視しています」とホワイトは言う。メンバー全員がオフロードコースでのトレーニングを受けており、多くがダチア主催の講習会か、HSE(Health and Safety Executive:安全衛生庁)認定のファーストエイドコースにも参加している。「こうした資格や知識はラリー以外でも活用することができます」とホワイトは話す。

関連テーマ

おすすめ記事

 

ダチアの人気画像