あまり売れないスポーツカー メーカーが用意するワケ 情緒と技術向上が関係か

公開 : 2019.05.17 20:10  更新 : 2021.10.22 10:17

スポーツカーがあると技術水準も高まる?

DOHC(ツインカム)エンジン、スーパーチャージャー、ディスクブレーキといったメカニズムは、かつてスポーツカーから普及していった。

最新のメカニズムは、まず「走る実験室」と呼ばれたレーシングマシンで試され、そこからスポーツカーに採用された経緯がある。

今はクルマの進化もカテゴリーに応じて専門化されているから、スポーツカーの日産GT-Rで採用されたメカニズムが、軽自動車のデイズに直接普及していくことは考えにくい。

それでも例えば構造用接着剤の採用など、クルマ造りの手法とか考え方は、高性能なスポーツカーや高級セダンから採用されることもある。

そしてプレミアムブランドのスポーツカーには、先進メカニズムをいち早く採用した時代から継承されている車種も多い。例えばメルセデス・ベンツSLは、1950年代から用意されているスポーツカーだ。

BMWは新しい8シリーズがCSの流れを汲むスポーティクーペに位置付けられる。そこには「最高の走行性能を発揮するのはスポーツカー」という定石がある。

従ってプレミアムブランドは、スポーツカーが欠けるとバランスを欠いてしまうとも言える。特に今はSUVが加わり、そのほかのカテゴリーがセダン/ワゴン/ハッチバックでは、実用車の集まりになってしまう。ここにスポーツカー、あるいはクーペが加わると、華やかさが生まれるわけだ。

販売戦略的にもスポーツカーは欠かせない。プレミアムセダンをファーストカーとして所有するユーザーが、趣味で乗るクルマを求めると、スポーツカーが必要になるからだ。

この時にスポーツカーがないと、そのユーザーは別のブランドから探し、セダンと併せて2つのブランドを所有するだろう。その新たに購入したスポーツカーの担当セールスマンが有能だったらどうなるか?

ファーストカーのセダンまで、スポーツカーと同じブランドに変えられてしまうかも知れない。つまりプレミアムブランドでは、裕福な顧客のカーライフを独占したいから、スポーツカーを含めて高級車を幅広く扱う必要が生じる。

それでも一番大切なのは「スポーツカーを造りたい」メーカーと「スポーツカーを楽しみたい」ユーザーの想いだろう。だからスポーツカーを運転していると、出会ったことのない開発者と、話をしている気分になることがある。こんな時、自分がクルマ好きで良かったと思う。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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