レースタイヤ用ゴム、温めるとどうなる? タイヤの達人がブリヂストンで訊いた「深い話」(後編:走る実験室としてのモータースポーツ)

公開 : 2026.08.14 17:10

ブリヂストンがメディア向けに勉強会『ゴムの技術と走る実験室としてのモータースポーツ』を開催しました。なかなか知ることのできない深い話を、タイヤの達人斎藤聡が前後編にわたってみっちりじっくりレポートします。

市販用とレース用、よく弾むのはどっち?

ブリヂストンがメディア向けに開催した、『ゴムの技術と走る実験室としてのモータースポーツ』という勉強会。前編では、ゴムの技術の話を細かくお伝えしました。

さて、後編ではもうひとつのテーマである、『走る実験室としてのモータースポーツ』についてレポートします。

同じ高さから落とした時の写真。左が市販タイヤ用ゴム、右がレースタイヤ用ゴムです。
同じ高さから落とした時の写真。左が市販タイヤ用ゴム、右がレースタイヤ用ゴムです。    ブリヂストン

こちらもまずは、ゴムの特性の話から。

例えば、スーパーハイパフォーマンスカー(純正タイヤ)で富士スピードウェイを1分50秒で走ったとします。

そのクルマのレース仕様車両にスリックタイヤを履かせると、ラップタイムが8秒程度短縮します。

さらにスーパーGT仕様の車両にレースタイヤを装着すると、ラップタイムはそこからさらに5秒短縮するのです。

タイヤにフォーカスした時、グリップの違いはどこにあるのでしょうか。

実験材料として用意していただいたのは、ふたつのゴムボールです。

触ってみると、片方はゴムらしい弾力感があり、もうひとつは硬質な触感です。これを同じ高さから落としてみると、弾力感のあるほうは良く弾み、もう一方はほとんど弾みません。

じつはこれ、良く弾むほうが市販タイヤ用ゴムで、弾まないほうがレースタイヤ用ゴムとなります。

なぜこのような違いがあるのかというと、これはヒステリシス摩擦(ロス)の違いによるものなのです。

ポイントはヒステリシス摩擦

タイヤのゴムのグリップ力には、大別すると『凝着(粘着)摩擦力』と『ヒステリシス摩擦』があります。

タイヤのヒステリシス摩擦というのは、タイヤが地面に接地して、ゴムが変形して戻るときに、ゴムが内部で熱に変わってエネルギーが失われる現象のことです。

使い捨てカイロを使用して、疑似的に走行してタイヤが温まった状態を再現。
使い捨てカイロを使用して、疑似的に走行してタイヤが温まった状態を再現。    ブリヂストン

市販タイヤ用ゴムは、エネルギーがあまり熱に変換されず弾むのです。つまりヒステリシス摩擦が少ないということです。

一方、レースタイヤ用ゴムは、ヒステリシス摩擦が大きいので、ほとんど弾まないのです。

じつは、もう1セット同じゴムボールが用意されていました。こちらには使い捨てカイロが入っていて、ゴムボールが温められていました。

温められたふたつのボールは、同じ高さから落としても結果は前と同じで、市販タイヤ用がよく弾み、レースタイヤ用はほとんど弾みませんでした。

変化したのは手触りです。

市販タイヤ用の手触りは変わりませんでしたが、レースタイヤ用はべたつく感触が増していました。

試しにテーブルに軽く擦り付けてみると、温まる前のレースタイヤ用のゴムボールはまったく抵抗感がなく滑る感覚でしたが、温まるとグッと抵抗感が強くなり、滑りにくくなりました。

これは、タイヤが温められたことによって、凝着摩擦が強く発揮された結果なのです。

記事に関わった人々

  • 執筆

    斎藤聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オーバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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