メルセデス・ベンツSLRマクラーレン スーパーカーを夢見たグランドツアラー 後編

公開 : 2019.09.29 16:50  更新 : 2020.12.08 10:56

ミレニアム時代にメルセデス・ベンツとマクラーレンとのコラボレーションによって生まれた、メルセデス・ベンツSLRマクラーレン。現役時代は賛否両論あったクルマですが、誕生から16年がたった今、その孤高のアイデンティティを振り返ります。

もくじ

双子のようなクーペとロードスター
信じられない加速力と陶酔させるサウンド
比類のない個性。選ぶならロードスター
番外編:ゴードン・マレーが思うSLR
メルセデス・ベンツSLRマクラーレン(2003年〜2010年)のスペック

双子のようなクーペとロードスター

貴重なメルセデス・ベンツSLRマクラーレンだが、初めに乗ったのはシルバーのクーペ。ロンドンのエキゾチックカー販売店「DDクラシック」が保有するクルマだ。試乗メモも取りやすい。乗ってすぐに、メルセデス・ベンツSLRマクラーレン・ロードスターとの共通性の高さに気付いた。双子の兄弟のようだ。

同時に生まれたわけではないが、両車ともに誕生したのは同じ工場。ロードスターの生産は、クーペの人気に陰りが出始めた2007年に始まった。ウエストラインより下はすべて、サッシュレス・ドアのヒンジがAピラーに付くところから、オプションではあったが、19インチのタービン・スタイルのアルミホイールまで同じ。

メルセデス・ベンツSLRマクラーレン
メルセデス・ベンツSLRマクラーレン

唯一アピアランスで異なるのは、アンロックのみ手動で行う必要があるが、電動でリアシェルフに折りたたまれるソフトトップくらい。すべて電動にするよりも、人間がワンアクションする手間を加えるだけで6kgの軽量化につながるという。

祖先の300SLとは異なり、クーペであってもロードスターであっても、エレガントに乗り降りするのが難しい。パリス・ヒルトンは若く痩せているから問題ないかもしれないが、わたしにとってはひと仕事。

色々試して、初めにお尻から乗り込む方法にたどり着いた。後はヤドカリのように、高いサイドシルの上から体を後ろに押し込んでいくのがスムーズだ。一度乗ってしまえば、キャビンはとても居心地が良い。

大きなボディの見かけによらず、車内は少し狭くも感じられるが、現代のSLを運転しているドライバーなら違和感なく寛げるだろう。彫りの深いカーボンファイバー製のシートながら、座り心地は快適。まるで船の舳先のように長く伸びるボンネットを軽く見下ろせる視界があり、ドライビングポジションも良好だ。

信じられない加速力と陶酔させるサウンド

車内も、初期のクルマにギアをマニュアルモードで変速できる「タッチシフト」ボタンが付いている以外、基本的にクーペとロードスターは同じ。ロードスターの方には一般的なシフトパドルがステアリングコラムに付いていて、タップすると一層直感的にドライブできる。

コンセプトカーの時から、イグニッションキーを差し込む位置はシフトノブの上部に設けられたカバーの中。それからスタートボタンを親指で押す。90度のバンク角を持つV型8気筒の爆発音は、まるでジェット戦闘機の強烈な機関砲のようだ。

メルセデス・ベンツSLRマクラーレン
メルセデス・ベンツSLRマクラーレン

5.4Lエンジンのサウンドは特別感はないが、アイドリング状態でも特有のビートに惹き込まれる。両側のドアの下に顔を出す排気口も、初代300SLRと同様。ドライバーの間近から放たれる音響が、ヘビー級のグランドツアラーに左右からドラマを与えてくれる。

SLRマクラーレンのクーペとロードスターを同時に所有することはかなり珍しいことだが、SLRのサウンドを完全に体感するには最適な条件といえる。テッダーがドライブするクーペを追走するかたちで、わたしがロードスターを駆る。ピットレーンを離れ、引き離されないようにスロットルペダルを踏み込む。

SLRマクラーレンの扱いやすさにはすぐに気付いた。路面が湿った初めのコーナーで、温まる前のタイヤが軽くうずく。482psのSL55よりも、運転しやすくひときわ速い。エスケープゾーンの外には立木が並んでいるものの、やはり安全に限界領域まで確かめるにはサーキットで正解だ。

キックダウンするとパワーが炸裂するから、わずかにスロットルを操作してリアタイヤを落ち着かせる。直後、SLRは信じられないほどの勢いで加速し始める。頭を後ろに押し付けられるほどに、とてつもなく速い。そこに雷鳴のような排気音と、2万3000rpmで回転するスーパーチャージャーの悲鳴が、酔わせるように重なってくる。

 
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