【トリノ・デザインのSタイプ】フルア・ジャガーSタイプ 1台限りのコーチビルド・クーペ 前編

公開 : 2020.12.13 07:20

意図的なジャガーに見えないデザイン

ベースになったジャガーSタイプは、左ハンドルの3.8Lエンジンで、マニュアル・トランスミッション。ブレーキは四輪ともにディスクを備え、サスペンションは独立懸架式。ワイヤーホイールを履いていた。シャシー番号は1B78869DNだ。

フルア社は真摯に仕事に向き合い、約3ヶ月でスチール製ボディのクーペを制作。自動車ショーに向けて準備を整えた。

フルア・ジャガーSタイプ・クーペ(1966年)
フルア・ジャガーSタイプ・クーペ(1966年)

それより以前、ピエトロが生み出したAC 428のデザインは、マセラティ・ミストラルに酷似していた。同様に、スカイブルーのSタイプは、マセラティ・クアトロポルテにそっくり。1969年、さらにオペル・アドミラル・クーペで、そのデザインを反復させている。

完成したフルアSタイプは、ジャガーのようには見えない。意図的なものだったのだろう。

上品なスタイリングは、パーソナル・ラグジュアリークーペとしての品格をたたえている。ボディサイズはSタイプ・サルーンとほぼ同じだが、エッジが立ち気味のスタイリングで、ワイド感が強い。

幅のあるフロントグリルや、ヘッドライト内側の補助ライトなどは、シリーズ2のXJにも通じる処理でもある。一見すると流れるように滑らかに弧を描く、シンプルなシルエットにも見える。

数少ないSタイプを想起させる手がかり

長いテールを持ち、大きなリアクォーター・ガラスを備えるキャビンは、ブラウンズが生み出したサルーンより視覚的に重い。大胆に伸びるボディパネルの大きさを考えると、実際に車重も重いはず。

ワイヤーホイールとフロントグリルのエンブレムは、Sタイプがベースだと感じさせる数少ない手がかり。細身のピラーに、高く四角いグラスエリアは、ライオンズのデザインとは明らかに異る。それでも、フルアのボディもエレガントだ。

フルア・ジャガーSタイプ・クーペ(1966年)
フルア・ジャガーSタイプ・クーペ(1966年)

リアガラスは優雅にリアデッキへつながる。テールは切り落とされたように切り立ち、見慣れた造形のテールライトが整然と並ぶ。まだ姿を見せていない、ロールス・ロイス・カルマグを匂わせる雰囲気もある。

多くのワンオフ・モデルと同様にフルアSタイプも、ジュネーブ・ショーの終わりとともに記憶から消えていった。イタリアのレスピーノが、いつまでこのSタイプを所有していたのかは定かではない。少なくとも1970年には、スイスへ転売されている。

手に入れたのはハンス・ハルデマンという、オートバイレーサー。彼はブリティッシュ・レーシンググリーンにボディを塗り、1978年までクーペを楽しんだ。

その後は英国へ売却され、1985年に再び転売。1992年にオークションに出品されている。

1995年に英国で再登録され、 FNN 714Cのナンバープレートを取得。同時にスカイブルーのボディをよみがえらせるべく、約10万ポンドを費やし徹底的なレストアを受けた。オーナーは幾度も変わっていたものの、状態はそれほど悪くはなかったようだ。

この続きは後編にて。

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