ネオクラV8サルーン BMW M5 メルセデスE 55 AMG ジャガーSタイプ R マセラティ・クアトロポルテ 4台比較 前編

公開 : 2022.12.11 07:05

ミレニアム時代に各社から出揃ったV8エンジンの高性能サルーン。英国編集部が4台ヘ試乗し、各個性を振り返りました。

M5初採用の自然吸気V8エンジン

敵対的な新規モデルの投入といえた。ドイツで誕生した訴求力ある存在は、それ以外のブランドにも対立候補の創出を脅迫的に迫った。1960年代に高性能サルーンという発想をカタチにしていたジャガーも、蚊帳の外にはいられなかった。

ウォールナットのダッシュボードとポリッシュされたカムカバーは、コンピューター制御の時代へ合わせるように、アルミニウムの化粧トリムと樹脂製のエンジンカバーへ置き換えられた。迫りくる21世紀は、新しい要求への回答を求めていた。

BMW M5(E39/1998〜2003年/英国仕様)
BMW M5(E39/1998〜2003年/英国仕様)

太いトルクがもたらす250km/hの最高速度を、4ドアサルーンで実現するだけでは不十分。ラグジュアリーなインテリアと外界からの隔離性を保ちつつ、峠道を我が物にするような機敏な操縦性を叶える必要もあった。

一足先に打って出たのはBMWだった。1997年のフランクフルト・モーターショーで、E39型M5が発表された。動力性能や乗り心地、操縦性、製造品質など多くの面でライバルを凌駕していた、4世代目5シリーズをベースにしたMモデルだ。

目玉といえた装備が、M5として初搭載された自然吸気のV8エンジン。可能な限りハイパワーを求めるという、M部門の意思を表明したユニットといえた。

540iに搭載されていたM62型ユニットを素材に、S62型へアップデート。バルブポケットの切り欠きが付いた鍛造ピストンを採用し、89mmへのロングストローク化と94mmへのボアアップ化が施され、ピストン間の冷却機能も向上されていた。

世界最強の路上を走るコンピューター

この4941cc V8エンジンを司ったのが、ボッシュ社と共同開発されたMSS 52 ECUと呼ばれる電子制御装置。当時は世界最強の路上を走るコンピューターとさえ称され、バタフライを備えた個別のスロットルボディを、120ミリ秒という高速で調整した。

先進的な可変バルブシステム、ダブルバノスと、セミ・ドライサンプ方式のオイル循環システムも採用。その結果得た最高出力は400ps、最大トルクは50.9kg-mに達した。

BMW M5(E39/1998〜2003年/英国仕様)
BMW M5(E39/1998〜2003年/英国仕様)

サスペンションは、ニュルブルクリンク・サーキットを約10万kmも走り込みチューニング。フロント側は15mm、リアは10mm、標準の5シリーズより落とされた。もちろん、スプリングレートや可動特性などのジオメトリーも見直されている。

1998年に生産がスタートした当時のM5の資料を振り返ると、ダイナミックなサルーンを追い求めたことへの説明が、延々と続いている。技術に対する自信の表れなのだろう。

容姿では専用のフロントバンパーや、240km/h時に50kgのダウンフォースを生み出す控えめなリアスポイラーなど、専用ボディキットを獲得。それでいて空気抵抗は、540iのCd値0.31から変わりなかった。

時を同じくして、W210型のメルセデス・ベンツE 55 AMGが登場。M5より穏やかに感じられる見た目だが、内に秘めた能力に不足はなかった。

M5の装備は驚くほど充実していたが、シュツットガルトの老舗が生み出した高性能サルーンも引けを取らない。自負に満ちた、落ち着きのようなものを感じる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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