マクラーレンP1

公開 : 2014.01.21 23:59  更新 : 2017.05.29 19:11

■どんなクルマ?

1994年に登場したマクラーレンF1に代わる強力なクルマが登場した。それがマクラーレンP1だ。世界最速の称号は僅かに軽いボディを持つラ フェラーリに譲ってはいるものの、間違いなく現時点で世界で最も刺激的なパイパー・スポーツであることは間違いない。

P1には£866,000(1億4848万円)のプライス・タグが付けられている。そしてその生産台数は僅かに375台である。

そのボディの中心にはル・マンのプロトタイプ・レーサーのような2シーターのカーボンファイバー・タブが用いられている。そして、そこに2つの異なるパワー・ソースが取り付けられる。

第一は727bhp/7300rpmのパワーと、73.4kg-m/4000rpmのトルクを持つ3.8ℓツインターボV8ユニット。第二は、176bhpのパワーと26.5kg-mのトルクを持つリチウムイオン電池で駆動されるモーターだ。合計の出力は903bhp、91.8kg-mとなる。

想像に容易なようにそのボディは様々なマテリアルが使用される。その結果、ボディ重量は1450kgだ。これは1トンにつき600bhpを上回るパワー・ウエイト・レシオとなる。その組み合わせがもたらすパフォーマンスは、0-96km/h加速が2.8秒、0-160km/h加速が6.0秒未満、そして0-320km/h加速も20秒を切る。われわれがマクラーレンF1をテストした時の結果は、0-96km/h加速が3.2秒、0-160km/h加速が6.3秒、そして0-320km/hが28秒といったものであるから、この数値が如何に驚きに値するかが解かろうというものだ。

そして、巨大なリア・ウイングを含む油圧制御されるエアロダイナミクス・パッケージ、超高速でエンゲージできるデュアル・クラッチ・ギアボックス、カーボン・セラミック・ブレーキ、ESPによる高いトラクション・システムなどが、P1の速さをサポートする。

このP1のニュルブルクリンクのノルドシュライフェでのタイムは7分未満とマクラーレンは発表している。正確な数値はまだ明かしていない。しかし、インターネット上の噂によれば6分47秒だという。しかし、マクラーレンの内部スタッフによればそれよりも速いという。それによれば6分30秒台をマークするのだという。どちらにせよ、ラ フェラーリがニュルブルクリンクでのタイムを計測するまでは、間違いなく “キング・オブ・リンク” であることは間違いない事実だ。

■どんな感じ?

バーレーンのグランプリ・コースにP1を引っ張りだす。最初の印象はMP4 12Cのようなフィーリングだ。ステアリング・ホイールはMP4 12Cとディテールでは若干の違いはあるものの、同じようなデザインのもの。その一方で、ドライバーズ・シートはMP4 12Cよりもサポートが強い。しかし、ステアリング・ホイールにあるマルチ・アジャスタブル・スイッチは、明らかに小さな兄弟車とは異なる。ダッシュボードとステアリング・ホイールには、ハイブリッド・システムをコントロールする数多くのエクストラ・ボタンが並んでいるのだ。

トラック・モードになっている時には、ボタンを押すことで可能となるドラッグ・リダクション・システムを備える。この状態では、高いギアで比較的緩やかな加速の際でも、ツインターボV8が深いサウンドを奏でる。また、デュアル・クラッチ・ギアボックスは、そんなモードであっても活発で鋭いレスポンスを示してくれた。

まず最初にEモードを試して欲しい。このモードを選んだ瞬間、V8エンジンの火は止まる。そして無音の走行が可能となる。これはMP4 12Cでは味わえない世界だ。V8エンジンの助けがまったくなくなったとしても、P1は決して遅いクルマではない。

しかし、そのV8エンジンに再び火が入ると、それは本当に速いクルマに変身する。ほとんど狂気の世界と言ってよい。

しばらくステアリングを握っているうちに、様々なドライブ・モードによって、どんなドライビングが味わえるのかを理解することができる。レース・モードでは、最初の1周でほとんどのドライバーは驚きの声をあげることになる。想像よりも遥かに早く地平線が近づいてくる。その速さに頭がついていくのは困難極まりない。

そこで、最初は標準でセットされるシャシー・セットとパワー・トレインの組み合わせで走ることにした。ブースト・システムはスイッチ・オンにしておく。それでも、このモードではパワーは727bhpまでリデュースされる(!)。フルパワーの903bhpを引き出すためには、ステアリング・ホイールにあるiPASスイッチを押さなければならない。このボタンをプッシュしている時のみ、903bhpが味わえるのだ。

ピット・レーンからコースに入る。P1の乗り心地は固いものだが、よくダンピングの効いたもの。ステアリングは軽いがMP4 12Cに似て非常に正確だ。ブレーキはそれなりの踏力を必要とするが、そのストッピング・パワーは強力そのもの。ポルシェ918スパイダーやラ フェラーリと異なり、マクラーレンは回生制動力をバッテリーの充電のために使わないことにした。従って、踏力はそのままブレーキに伝えられることになる。

高速コーナーでもほとんどロールは感じない。リア・ホイールのトラクションにも、フロントに履いたピレリーPゼロ・コルサがよくついてくる。試しにコーナーの出口で激しくスロットルをオンにしてみる。リア・タイヤが一瞬スライドを起こすが、トラクション・コントロール・システムがきちんと作動し、驚くほどの力で立ち上がっていく。このP1は、今までのクルマとは別次元のモンスターなのだ。MP4 12Cのパワフルなバージョンというだけではない。全く別物の怪物なのだ。

スポーツ・モードとトラック・モードでは、シャシーの反応がバリっとし、ステアリングのレスポンスも早くなる。しかし、その違いは正直それほど大きくない。

しかし、レース・モードになると全く別物となる。トラック・モードでは11にダイヤルを合わせた感じなのに対し、レース・モードではそのダイヤルを20以上に上げた感じだ。その違いは何にあるのか。まず、車高が50mm自動的に低くなること。また、240km/hで600kgのダウンフォースが得られるようにリア・ウイングもせり上がってくる。そして、プッシュ・スイッチを押すのであれば903bhpがデリバリーされ、その時点でサスペンションも2ノッチほど固められる。パフォーマンス、コーナリング・グリップ、ダイナミックさの向上は明らかだ。ノーマルやスポーツ、トラック・モードでコーナーを抜けていたのが可愛いと思えるほど。

P1は、そのストレート・スピードでもブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツを含むどのクルマよりも速い。そして、コーナリングとブレーキングは筆舌にしがたい。

もちろん、あなたが勇敢なドライバーであるのであれば、ESPやトラクション・コントロールが動作するのを避けてカウンターを切ることも可能だ。しかし、それは賢いドライビングではない。

P1は、少なくともサーキットにおいては、ポルシェ918をも敵とはしないクルマであることは間違いない。

■「買い」か?

残念なことに、375台のマクラーレンP1はすべてソールド・アウトしている。従って、あなたが今からそのオーダーリストに名を連ねることはできない。

しかし、今までドライブしたクルマの中で、最もエキサイティングなクルマ、それがマクラーレンP1であることは確かだ。

(スティーブ・サトクリフ)

マクラーレンP1

価格 £866,000(1億4848万円)
最高速度 350km/h
0-96km/h加速 2.8秒
燃費 12.0km/ℓ
CO2排出量 194g/km
乾燥重量 1450kg
エンジン V型8気筒3799ccツインターボ + KERS
最高出力 903ps/7500rpm
最大トルク 91.8kg-m/4000rpm
ギアボックス 7速デュアルクラッチ

▶動画 / マクラーレンP1

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