【何が起きてる?】半導体不足、自動車産業に甚大な影響 その理由と今後

公開 : 2021.09.02 19:45  更新 : 2021.10.11 13:55

重なった火災 クルマ自体の進化も

悪いことは重なるもので、2020年10月に旭化成が、2021年3月にはルネサスで生産ラインの火災が発生。

ルネサスは早々に復旧宣言を表明したものの、旭化成は復旧を断念。当面は外部委託でしのぎ、最終的には新規に工場を建設する方向にシフトした。

自動車の生産調整は、世界的に発生中。新型車の発表スケジュールが後ろ倒しになるケースも見られる。
自動車の生産調整は、世界的に発生中。新型車の発表スケジュールが後ろ倒しになるケースも見られる。

さらに21年2月には、北米で発生した大規模停電の影響でサムスンが製造ラインをストップさせた。これらが市場の混乱に拍車をかけたのは間違いない。

ここで知っておきたいのが、自動車メーカーがどうして急激に半導体を欲しがるようになったかである。

実は自動車にはこれまでも多くの半導体が使われてきた。しかし、それらは主にエンジンなどを電子制御するECU(Electronic Control Unit)に使われる程度だった。

それが今やクルマはスマホ並みの多彩な機能を持つインフォテイメントシステムを搭載するようになり、さらにはドライバーの運転を支援するADAS(先進運転支援システム)も標準化されるようになった。

こうなると旧世代のマイコンでは完全に力不足。つまり、こうしたクルマの急速な進化も半導体の需要ひっ迫の一因を作っているのだ。

半導体メーカーがこだわる確定受注

では、こうした需要にどうして半導体メーカーは対応しないのか。

注文があるのだから増産すれば会社にとってもプラスになるのでは? これは誰もが思うことだ。しかし、事情は想像以上に複雑だった。

クルマの世代差を感じる、大きなファクターの1つがインフォテイメントの進化。当然、半導体の需要は増え続けている。
クルマの世代差を感じる、大きなファクターの1つがインフォテイメントの進化。当然、半導体の需要は増え続けている。

まず、半導体は一朝一夕に作れるものではないということだ。半導体の製造は、ウエハーと呼ばれる円形の基盤の上に電子回路を高精度に埋め込むことが基本となる。

その設計を含むと、完成してウエハーから切り出して製品化するまでの工程は、少なくとも3~4か月はかかるという。しかも、この設備投資には莫大な資金が必要で、確定注文がないと引き受けることはできない。

日本の自動車向け半導体の大手メーカーであるルネサスの代表取締役社長兼CEO、柴田英利氏は、4月に開催された決算説明会の席上、「オーダーがかなりタイトになってしまっていて、少なくとも半年先までは確定受注いただかないとモノが納められない」と語った。

つまり、それだけ半導体の製造はリスキーであるわけだ。

そんなリスキーな事業である故に採用されているのが、外部生産委託だ。

自動車向け半導体メーカー自体はグローバルで見れば決して少なくはないが、このリスク回避をするために自社で生産する半導体は限定的とし、大半を外部生産委託して製造しているのだ。

しかもこの生産委託は、台湾のTSMC(台湾セミコンダクターマニファクチャリング)か、韓国のサムスン電子の2社に絞られる。それだけに、2社の製造ラインは1~2年先まで押さえられてしまっており、注文の多いユーザーが優先されがちというのが現状なのだ。

記事に関わった人々

  • 徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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