【21世紀の英国スポーツ】ジェンセンS-V8とモーガン・エアロ8 V8のロードスター 後編

公開 : 2021.09.25 17:45  更新 : 2021.10.15 13:18

ニュートラルで信頼できるモーガンの魔法

ドライバーの要求に応じて、充分素早くフロントが反応し、表立って書けないような速度まで受け付けてくれる。加速もジェンセンより良い。モトリタのステアリングホイールを回しても、殆どボディロールは示さない。

リアタイヤは信頼感を抱かせ、挙動はニュートラル。この落ち着きでアンチロールバーが備わらないというのだから、モーガンの魔法だ。

モーガン・エアロ8 シリーズ1(2000〜2004年/英国仕様)
モーガン・エアロ8 シリーズ1(2000〜2004年/英国仕様)

軽くないV8エンジンを搭載するが、21世紀のモーガンらしく、ボディが振動したりシャシーが歪むような兆候も見せない。ただし、乗り心地は初期のエアロ8の弱点だった。

確かにジェンセンS-V8よりは硬い。シリーズを重ね、エアロ8はボディロールと引き換えに柔らかさを増した。+8と比較され、批判されることもなかった。流暢にしなやかに反応するシャシーは、価格なりの価値を感じさせる。

頼れるシャシーがあってこそ、BMW由来の輝かしいドライブトレインが活きる。クラッチはS-V8より重く、ブレーキとアクセルペダルのストロークは長い。シフトレバーの動きは、お手本通り。

当時のBMWのMTは、スプリングを挟んだような少し不快な手応えを感じることがあったが、モーガンの例では見られない。とてもクリーンに変速できる。4.4L V8エンジンの能力を引き出しやすくしている。

カタログスペックは、290ps/5500rpmと44.4kg-m/3750rpmと、S-V8よりトルクは少しだけ太いが、馬力は低い。それでも、回転域を通じて明確にたくましい。4000rpmを過ぎた辺りから美声を響かせ始める。

多くの人に愛されるべきだったS-V8

聴き応えのあるサウンドで、実際に郊外の道を飛ばすとモーガンの方が速く感じられる。エグゾーストノートの音量は控えめで、風切り音も穏やかだから、高速域での疲労感も低い。足元が熱くなることもない。

ジェンセンより洗練されている。新設計の風洞実験施設で練られた、初めてのモーガンなだけのことはある。

ジェンセンS-V8(2001〜2006年/英国仕様)
ジェンセンS-V8(2001〜2006年/英国仕様)

ほぼ同時期に誕生した、ジェンセンS-V8とモーガン・エアロ8。グランドツアラーを得意としたジェンセンによるスポーツカー的モデルと、スポーツカーを得意とするモーガンの、グランドツアラー的モデルという個性が興味深い。

どっち付かずの2台だったかもしれない。だが直系のブリティッシュ・スポーツカーとして、時代を飾ったモデルだったといえるだろう。

ジェンセンS-V8は、より長く、多くのドライバーに愛されるべき価値があった。エアロ8は優れたモデルとして2018年まで作られたが、S-V8の生産が打ち切られていなければ、お互いに高め合うことも可能だったはず。

ジェンセンがポルシェを追いかけ回す傍らで、モーガンは通りすがりの人の笑顔を集める。マルバーンで生み出されたデザインは魅力的だ。批判の声はゼロではないが、見慣れたスタイリングのアップデートに成功していると思う。

どちらも、個性溢れるボディの内側には、印象的なまでのスポーツカーが隠れている。長距離をともにしたいと思える、熟成の味わいもある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・チャールズワース

    Simon Charlesworth

    英国編集部
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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