時代の最高速モデル 1990年代 マクラーレンF1 3シーターにNA V12で386.4km/h

公開 : 2022.04.24 07:06

クルマの性能を端的に表す指標の1つ、最高速度。過去100年間を振り返り、各年代の最速モデルをご紹介します。

純粋で独自性の高い設計が生む強さ

マクラーレンF1は、単に当時の最速モデルなだけではない。世界最高のスポーツカーだった。1995年のル・マン24時間レースでも見事に総合優勝を掴んでいる。その強さの秘訣は、純粋で独自性の高い設計にあるといえる。

1980年代後半、マクラーレンはグランプリ・チームとして圧倒的な成功を掴んでいた。しかし、チームのテクニカル・ディレクターを務めていたゴードン・マレー氏は、フォーミュラ1に対する思いが薄れていると口にしていた。

マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)
マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)

同時に彼は、公道走行できる純粋なスポーツカーを作りたいという気持ちを膨らませていた。数十年に渡って育んできたものだった。「1960年代から、このアイデアを考えてきました」。と以前のインタビューでも答えている。

マレーがフォーミュラ1マシンの開発から退く一方、マクラーレンのチーム監督を努めていたロン・デニス氏が、マクラーレン・カーズ社を設立。2人は公道用スポーツカー、マクラーレンF1という夢の現実へ進み始めた。

1990年5月、マレーが理想とするチームを編成。すべてのスタッフへ、目指すクルマに対する自身の考えを丁寧に説明した。10時間ほどを掛けて。

BMWのNA V12は636psを発生

マクラーレンは当初、フォーミュラ1でエンジンサプライヤーとしてパートナーを組んでいたホンダへ、公道用モデルのエンジン提供を打診した。しかし第1希望は叶わず、BMWと合意。自然吸気の6.1L V型12気筒エンジンが開発されることになる。

他方、マクラーレンの開発チームには、コンポジット素材に詳しい技術者が揃っていた。カーボンファイバー製タブシャシーで、車重は1000kgを切ることが目標だった。ドライバーが中央で、両隣に1名づつ座れる3シーター・レイアウトは、特徴の1つでもある。

マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)
マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)

また、カーボンファイバー製ディスクの開発に挑んだものの、一般道での速度域で良好に作動させることが難しく、スチール製ディスクへ変更。結果として、車重は目標の1t切りには届いていない。

1994年に自動車誌が実施したテストでは、燃料タンクにガソリンを半分入れた状態で、1138kgが計測されている。それでも軽量といえ、さらにパワフルなエンジンがその重さを充分以上に補った。

BMWが目指した性能は当初550ps前後だったというが、最終的には636ps/7400rpmを達成。1t当たり約559psというパワーウエイトレシオを実現した。最大トルクは、66.1kg-mを4000rpmから7000rpmで生み出した。

0-100km/h加速は3.2秒で、160km/hまでも6.3秒で到達。588psのプロトタイプエンジンを載せた状態で、最高速度はイタリアのナルド・サーキットで371.7km/hに届いている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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