特別の中の特別 4世代のBMW M3を振り返る  スポーツ・エボ/GT/CSL/GTS 前編

公開 : 2022.06.18 07:05

シエラや190へ挑むため究極のE30型

翌1988年には、エボリューションIIが続いた。最高出力は220psに向上し、サスペンションとブレーキを改良。合計10kgの軽量化も図られていた。

これらの進化は、すべて熾烈を極めるサーキットでの競争に勝つため。フォード・シエラとメルセデス・ベンツ190クラスによるライバル関係を、制することが目的だった。

BMW M3 スポーツ・エボリューション(E30型/1989〜1990年/欧州仕様)
BMW M3 スポーツ・エボリューション(E30型/1989〜1990年/欧州仕様)

ちなみにE30型M3は、ラリーでも活躍。フランス・コルシカ島で開かれるツール・ド・コルスでは、1987年に優勝している。

そして1989年、M3 スポーツ・エボリューションが発売される。ターボで武装したシエラ RSコスワースと、過激なエアロボディの190 E2.5-16へ挑むために生まれた、BMWモータースポーツ社による究極のE30型といえる。

自然吸気の4気筒エンジンはさらにボアアップされ、ストロークも延ばされ、165ccを追加。S14B25に進化し、最高出力は238ps/7000rpmへ増強された。最大トルクも、24.4kg-m/4750rpmを獲得している。

吸気系統とカムシャフトは新設計となり、熱効率に優れるナトリウム封入のエグゾースト・バルブを採用。ピストンの激しい上下動に対応するため、潤滑系も強化されていた。

マニアのなかには、2.3Lの方が甘美に回ると評する人もいる。それは確かかもしれないが、2.5Lのスポーツ・エボリューションをベストBMWの1台として讃えるのに、まったく不足はない。今回用意した4台では、真っ赤なクルマがそれだ。

四角い見た目とは裏腹の鋭い加速

ややぼやけたエンジン・サウンドは、回転数の上昇とともに輝き出す。ステアリングは、現代基準でいえばややスロー。車高はエボリューションIIより10mm低いものの、荒れた公道でも驚くほど柔軟にいなしてくれる。

5速MTのシフトレバーも、ステアリングと合致するようにストロークは長め。アクセルペダルとブレーキペダルの反応は、レーザー級に鋭いわけではない。適度になだめやすい特性といえる。

レッドのBMW M3 スポーツ・エボリューション(E30型)とガンメタルのBMW M3 CSL(E46型)、オレンジのBMW M3 GTS(E92型)、ダークグリーンのBMW M3 GT(E36型)
レッドのBMW M3 スポーツ・エボリューション(E30型)とガンメタルのBMW M3 CSL(E46型)、オレンジのBMW M3 GTS(E92型)、ダークグリーンのBMW M3 GT(E36型)

ドアを開くと、大きくえぐられたバケットシートが2脚。このクルマの場合、ACシュニッツァー社製のスエード巻ステアリングホイールがセットになっている。角度を調整できるフロントとリアのスポイラーの雰囲気と、よく合っている。

アクセルペダルを傾けると、E30の小さく四角い見た目とは裏腹に、勢いよくスピードが高まる。5000rpmから7000rpmにかけては特に、エンジンが爽快に反応する。3速から2速へ、ブリッピングしながらシフトダウン。滑らかに、勢いよく吹け上がる。

ステアリングホイールやシフトレバーの感触も、速度が高まるにつれ直感的なものに変わっていく。タイヤ幅は225と控えめながら、車重1200kgと軽いボディをしっかり受け止め、グリップ力は期待以上に優れる。

調整式スポイラーの効果を試すことは、公道では難しい。ダウンフォースが生む過激な特性がないかわりに、限界領域には迫りやすい。

この続きは中編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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