ガソリン高騰でも楽しみたい フィアット850 スパイダー/オースチン・セブン 1.0L以下のクラシック 中編

公開 : 2022.07.10 07:06

オースチン・セブン(1923〜1939年)

歴史は勝者によって記される。英国車の歴史では、オースチン・セブンほどこの名言が当てはまるクルマはないだろう。

それ以前にも小さな英国車は存在した。だが、ハーバート・オースチン氏と見習い技術者だったスタンリー・エッジ氏が作り上げた、美しくシンプルな小型車は、現代に通じる要素を完全に抑えていた。

オースチン・セブン(1923〜1939年/英国仕様)
オースチン・セブン(1923〜1939年/英国仕様)

英国市民へ届ける準備が整ったのは、1923年。強固で安価なAフレームシャシーに696ccの4気筒エンジンと3速MTを搭載し、チャミーという愛称の付いたオープントップのボディで、大人2名と子供2名が乗ることができた。

英国価格は当初155ポンドと充分に手頃だったが、1934年には100ポンドで購入可能になっていた。当初、オースチンの安価な量産モデルに対しては、懐疑的に捉える人もいた。しかし、販売台数は急激に増加。彼が正しいことを、市場の反応が証明した。

1924年には手直しが加えられ、電動スターターやスピードメーターなどが追加。エンジンは747ccへ拡大され、当時の馬力課税の枠組みを超えたモデルという評判を集めた。

1926年末迄に製造されたセブンは、約1万5000台。ボディにはサルーンも用意され、様々なコーチビルダーが特装を手掛けるようにもなった。

モータースポーツのファンからも、セブンは重宝がられた。手頃な価格とメカニズムのシンプルさ、活気あふれる動力性能が、アマチュアにもピッタリだった。360kgと軽いシャシーは、荒野を走るトライアル・レースでも活躍している。

サイドバルブ4気筒エンジンの馬力は当初10.5psだったが、1930年から1933年のウルスター仕様では24psを発揮。スーパーチャージャーで加給すれば33psまで高まり、最高速度も120km/hに届いた。

運転する喜びを満喫できる最小のクルマ

今回ご登場いただいたオースチン・セブンは、1927年式。ボディはHテイラー&Co社による2シーター・シングルドアのセミスポーツ・タイプが架装されている。シャシーは9フィート(約274cm)で、スプリント・ギアが組まれている。

V型のフロントガラスと、カーペットの敷かれたフロアなどが与えられ、当時の価格は175ポンド。オースチンのカタログモデルより高かった。

オースチン・セブン(1923〜1939年/英国仕様)
オースチン・セブン(1923〜1939年/英国仕様)

見た目の特徴といえるのが、ボディ上半分を覆うファブリックだろう。グリーンに塗装された下半分と、ニッケルメッキのモールで区切られている。ボンネットには、ラッパのような吸気口も飛び出ている。Hテイラー&Co社が、ボートを得意としていた名残りだ。

3速MTにシンクロメッシュは備わらず、クラッチはスイッチのように突然つながる。それでも、小さなオースチンは機敏に反応し、小気味よく走る。

軽いボディのおかげで慣性は最小限。ダブルクラッチで2速へシフトアップし、ハイリフト・カムが組まれた活発なエンジンを吹かしたくなる。

ステアリングホイールへは、路面の振動が伝わってくる。サイドエグゾーストから、威勢の良いノイズが放たれる。コーナーでは、オープンボディから身体が転げ落ちそうになるが、積極的に運転するのが面白い。

こんなに楽しくても、環境負荷は最小限。ドライバーだけでなく、通り掛かる人も笑顔にする。運転する喜びを満喫できる、最小のクルマといって良いだろう。

英国には、驚くことに1万台近いオースチン・セブンが生き残っている。戦前のドライビング体験を、100年後の今も体験できる貴重な生き証人でもある。筆者も、思わず夢中になってしまうクラシックだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 執筆

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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