ガソリン高騰でも楽しみたい オースチン・ヒーレー・スプライト/スマート・ロードスター・ブラバス 1.0L以下のクラシック 後編

公開 : 2022.07.10 07:07  更新 : 2024.08.16 16:34

世界中が悩まされる原油高騰。英国編集部が、こんな時代も楽しめる排気量1000cc以下のクラシックを選出しました。

オースチンヒーレー・スプライトMk1(1958〜1961年)

オースチン・セブンと同様に、重要な先駆者だったといえる1台がオースチン・ヒーレー・スプライト。カニ目、フロッグアイなどと呼ばれるオリジナルは、手頃な価格の質素な英国スポーツという雛形を完成させたといっていい。

この企画に登場している、フィアットスズキにも大きな影響を与えたはず。オースチンA45やモーリンス・マイナーの部品を上手に融合させていた。

オースチン・ヒーレー・スプライトMk1(1958〜1961年/英国仕様)
オースチン・ヒーレー・スプライトMk1(1958〜1961年/英国仕様)

ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)傘下のオースチンと、ヒーレーは、1952年にジョイント・ベンチャーとしてオープン2シーターの100を発表。弟分といえるスプライトは、6年後の1958年に発売された。

ボディから飛び出たヘッドライトは、苦肉の策。デザインを手掛けたゲリー・コーカー氏が提案した、リトラクタブル・ヘッドライトがコストの理由で退けられたためだった。

とはいえ、その仕上りは魅力的。流れるような曲面に開いた、笑った口のようなフロントグリルと相まって、最高の表情を作り出している。

ドアを開くと、アルミニウム製トリムがキャビンの開口部を取り囲んだ、シンプルで純粋なインテリアに感心する。小さなボディに、大きな大人が問題なく座れる。

2スポークのステアリングホイールは、自然に伸ばした腕の先にある。肘は自然とドアのエッジに乗る。身長が180cm近くある筆者の場合は、フロントガラスから頭が飛び出るけれど。

今回の真っ赤なスプライトは、初期型のMk1。塗装されたフロントガラス両サイドのサポート部分が識別ポイントだ。

倹約的な部品の起源を包み隠す走り

これは、小さく純粋なスポーツカー。ビニールレザーで覆われたダッシュボードには、タコメーターだけでなく油圧計も並んでいる。シンプルなボディには、バンパーやドアハンドルがない。トランクリッドすらない。

キーを回してスターターをオンにすると、ツインSUキャブレターで吸気する948ccのAシリーズ・エンジンがドロドロと唸りだす。ペダルの配置は少々タイトだが、重み付けが丁度いい。

オースチン・ヒーレー・スプライトMk1(1958〜1961年/英国仕様)
オースチン・ヒーレー・スプライトMk1(1958〜1961年/英国仕様)

ギアの回転を調整するシンクロメッシュのない1速からシフトアップすると、細いテールパイプから放たれるサウンドで、メカノイズが包み隠される。スプライトの走りは、倹約的な部品で構成されているという、その起源も包み隠す。

すべての構成部品が融合し、活発なスポーツカーに仕立てられている。息を呑むほど速くなくても、最高に楽しい。よりハイスピードを求めるなら、当時は多様なチューニング・オプションを選べた。1.0L以下で。

ステアリングの反応は軽快で、感触もふんだん。乗り心地は硬めながら、1950年代のクルマの操縦性が素晴しいことに感心する。大径のステアリングホイールを思い切り回して、細いタイヤから得られる限定的なグリップを引き出し、限界を探れる。

車重は664kgで、最高出力は43psほど。数倍は速いスポーツカーでも得られないような、生々しいスリルを堪能できる。パワーはさほど重要ではないことを実感する。

これ以上贅沢である必要も、これ以上洗練されている必要もない。若々しい心を蘇らせてくれる、素晴らしいブリティッシュ・スポーツカーだ。

協力:クラシックカー・オークション

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 執筆

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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