完璧なスピリット BMW M635 CSi(E24)とBMW M5(E28) 1980年代の傑作Mモデル 後編

公開 : 2022.10.08 07:06

現在のBMW M、BMWモータースポーツの魔法が掛けられたM635 CSiと初代M5。英国編集部が1980年代の傑作2台を振り返ります。

実用性がクルマ好きの気持ちを掴んだ

E24型BMW M635 CSiとE28型BMW M5という、2台の1980年代のMモデル。ステアリングホイールを握る前に、M88/3型の直列6気筒ユニットを拝むことにしよう。

メカニズムとして美しく、エンジンルームを彩っている。カムカバーには「M Power」と誇らしげに刻印されている。6本のスロットルボディが、タダモノではない雰囲気を醸し出す。

BMW M5(E28型/1984〜1988年/英国仕様)
BMW M5(E28型/1984〜1988年/英国仕様)

M635 CSiとM5を乗り比べると、年齢を重ねたオーナーのデビッド・ラポポート氏が前者を好む理由が理解できる。ガラスエリアの大きいクーペは、やや薄暗い雰囲気の5シリーズより居心地が良い。運転席の前方には、ボンネット越しにワイドな視界が広がる。

ドライビングポジションは高めで、リラックスして運転しようという気分になる。Mのトリコロールがあしらわれた3スポークのスポーツ・ステアリングホイールや3枚のペダルとの位置関係は、どちらも素晴らしい。

クリーンなデザインでまとめられたダッシュボードは、当時のBMWが得意とした部分。大きな2枚のメーターが正面に並び、時速170マイル(273km/h)と8000rpmまで刻まれている。燃費計はない。

M635 CSiのリアシート側には、平均的な大人なら長距離旅行に耐えられる空間が確保されている。M5は5シーターだから、4名の大人が快適に移動できる。1980年代のサルーンとして、まったく不足はない。

この実用性が、クルマ好きの気持ちを掴んだ。M5は次のE34型へ受け継がれ、現在でもアウトバーンを疾走できるミディアム・サルーンとしての地位を守っている。

BMWらしくシルキーで刺激的な6気筒

落ち着いて車内を観察すると、古い電卓のような、プッシュボタンの付いた警告灯パネルが面白い。M635 CSiのレカロシートは、M5より身体にフィットし快適。ステアリングコラムの調整域は大きく、理想的なポジョンを導ける。

発進させると、M635 CSiがM5より40kg重いことを実感する。全体的に穏やかな印象で、年配の裕福なドライバーとの親和性も高い。当時のBMWは、フラッグシップ・クーペの正しい調律だと考えていたのだろう。

BMW M5(E28型/1984〜1988年/英国仕様)
BMW M5(E28型/1984〜1988年/英国仕様)

積極的に郊外の道を運転したいと思えるのは、サルーンのM5。とはいえ、どちらも流れるように走る。エンジンやトランスミッションはスムーズで扱いやすい。

重めのステアリングホイールは反応が終始一貫し、不要な感触が排除されている。前後のディスクブレーキは、期待するより若干効きが弱いようだ。

M88/3エンジンは、BMWの6気筒らしくシルキーに回る。メカニカルな乾いたサウンドを伴いつつ、低回転域も粘り強い。太いマフラーからは、公道を高速で走れる特別なモデルだと主張するように、勇ましいノイズが放たれる。

4000rpmを超えた辺りから湧き出てくるパワー感が、非常に刺激的。スムーズに高回転域まで上昇し、高音を交えながら意欲的に速度を高める。1速で引っ張れば約65km/h。2速で100km/h、3速では160km/hを超えていく。

鳥肌が立つような7000rpmまで使い切れば、M5でもM635 CSiでも4速で210km/hに届く。静止状態から30秒ほどで。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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