スラントノーズの優勝マシン ポルシェ935 K3を再現 中身は911 カレラ2.7 MFI 後編

公開 : 2023.06.10 07:06

ロックスターのような雰囲気を強烈に放つ

サスペンションは、セミレーシングといえるハードなもの。パワートレインは、公道走行を前提としたストックのまま。ボディワークは、ル・マン・マシンのよう。独特な組み合わせといえ、外見と内面が一致しないことは間違いない。

狼の皮を被った羊、というのは、少し強すぎる表現だろう。少なくとも、ワイドなタイヤを履くことで、ベースのカレラ2.7 MFIより優れた身のこなしは得ている。大きく膨らんだフェンダーも、そのタイヤを覆うために必要な装備だから、内容は伴っている。

ポルシェ911 カレラ2.7 MFI 935 K3レプリカ(1983年式/英国仕様)
ポルシェ911 カレラ2.7 MFI 935 K3レプリカ(1983年式/英国仕様)

フロントフェンダーに切られた無数のスリットは、確かに見た目重視かもしれない。それでも、この処理が嫌いな人は少ないはず。少なくとも筆者は好きだ。

ポルシェは昔から、最高のドライビング・プレジャーをわれわれに提供してきた。しかし、ちょっと真面目すぎ、陽気な華やかさを漂わせることは珍しい。ロンドンの音楽プロデューサーが目指したクルマは、まさにそれを叶えていた。

911 カレラ2.7 MFIをベースに、モータースポーツの栄光へ近い、ロックスターのような雰囲気を強烈に放つ。グレートブリテン島の小さな飛行場を走っていても、サルト・サーキットのスポットライトに照らされているように思える。

協力:アラステア・アイルズ氏、トロフェオ・カーズ

番外編:クレマー・レーシングの活躍

ドイツ・ケルンに拠点を置くクレマー・レーシングは、マンフレッド・クレマーとアーウィン・クレマーという兄弟が1962年に設立したレーシングチーム。その時点で既に、チューニングしたポルシェでモータースポーツ活動を展開していた。

ル・マン24時間レースへ初参戦したのは、1971年。1972年にはポルシェ911 カレラRSRで総合8位という、悪くない成績を残している。

ポルシェ911 カレラ2.7 MFI 935 K3レプリカ(1983年式/英国仕様)
ポルシェ911 カレラ2.7 MFI 935 K3レプリカ(1983年式/英国仕様)

1974年、911は901型から930型へアップデート。1975年に911 ターボが登場し、そのレーシングカー仕様、934と935をプライベートチームへポルシェは販売した。クレマー・レーシングも購入し、更なる成功を掴み取っていく。

彼らは935へチューニングを施し、クレーマーの頭文字、Kを与えた935 K1が完成。さらに開発を進め、935 K2を経て、独自のボディワークを与えた935 K3へ発展させた。

1979年のル・マンを戦った935 K3は、ポルシェのワークスチームを破り優勝。当時最も活躍した、グループ5カテゴリーのレーシングカーへ数えられるようになった。その後、さらに935 K4が開発されている。

1980年代に入ると、クレマー・レーシングはプロトタイプカーへ変更し、ル・マンへ参戦。ポルシェ956で、1983年には総合3位を掴んでいる。また1995年のデイトナ24時間レースでは、ポルシェ962をベースにしたクレマーK8が総合優勝を遂げた。

2001年以降は国際レースから手を引くが、ドイツ・ケルンにあるワークショップは健在。ポルシェでのGTレースのほか、オールドタイマー・グランプリといったイベントにも定期的に参加している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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