オーストラリア製ブルバー、ただの鉄パイプにあらず!【クロプリー英国版編集長コラム/クルマ漬けの毎日から】

公開 : 2026.07.27 17:25

故郷オーストラリアのアウトバック(奥地)を久しぶりに訪ねた筆者は、その最終日に「ブルバー(通称:カンガルーバー)の視察」に出かけました。本国版AUTOCAR編集長スティーブ・クロプリーによるコラムです。

ブルバー「命を守る道具」

故郷オーストラリアのアウトバック(奥地)での滞在は瞬く間に過ぎ、今日はいよいよ最終日。

その残り少ない貴重な時間を1時間も使って、未開地を走るクルマやピックアップに取り付けられたブルバー(野生動物との衝突に備える大型のフロントガード)を見に行こうという人は、あまりいないだろう。

頑丈かつハイテクなオーストラリア製ブルバー
頑丈かつハイテクなオーストラリア製ブルバー

だが、ブルバー事情に詳しい友人のポールと一緒に、私はまさにそれを実行した。というのも、何十年も前に私がオーストラリアを離れたのち、ブルバーは「もはや消えゆくもの」と考えられていた時期があったからだ。

エアバッグや衝突安全システムが普及していけば、やがてブルバーの装着は規制の対象になると見られていたのだ。

しかし、関係当局はその後考えを改めたようだ。

もし大型の防護バンパーを付けていないクルマが、時速70mile(約110km/h)でカンガルーやエミュー(オーストラリアに生息するダチョウに似た鳥)に衝突したら、その大型動物はボンネットへ乗り上げ、そのままフロントガラスを突き破って車内に飛び込んでくる可能性が十分にある。

というのも、そうした大型動物は重い胴体が地面から約1mの高さにあるからだ。もしそのような事態になれば、車内にいる人は命を落としかねない。

最近では、エアバッグなどの衝突安全システムの電子制御ソフトウェアに連動し、衝突時の衝撃をシャシー全体に分散させる補強材まで備えたブルバーがオーストラリアには存在するが、そういう高級仕様ならば、価格は3000ポンド(約60万円)にもなる。

究極のブルバーは「5本柱」と呼ばれるタイプだとポールはいう。5本の縦型チューブの間にメッシュが張られ、ラジエーターを保護する。彼によれば、ブルバーの役割は「美しい車体を完璧に守ることではなく、ドライバーがなんとか家まで運転して帰れるようにすること」だという。

「もっとスピードを落として走ればいいのでは?」と素朴な質問をしてみたところ、ポールはこう答えた。

「このあたりではたいていの場合、かなりの距離を走らなければ、家に辿り着けない。だからスピードを出すのさ。それと衝突事故が起きやすいのは、動物たちが活発に動き回る日没や日出の頃だけど、その時間帯は路上に野生動物がいても見えにくいのだよ」

なるほど、だからオーストラリアの奥地ではブルバーが必要なのだ。

イギリスに帰国:朝日のなかのMGB

飛行機は早朝にイギリスに到着した。夏の日差しが心地よい。

私が滞在していたオーストラリアはいま冬で、内陸部の砂漠地帯では冷え込みが厳しくなる。

MGAの後継として1962年に誕生したMGB。
MGAの後継として1962年に誕生したMGB。

空港近くの駐車場からクルマを出した時、ちょうど目の前に初期のMGBが走って来た。ボディカラーはアイボリーで、美しいワイヤーホイールを履いている、極めて良い状態の個体だ。

そのMGBはトップを開けて、朝日を浴びながら、西へ向かって走っていった。その若いドライバーの肩には肩章が付いていたので、おそらく飛行機のパイロットだろう。

あのMGBでこれからドライブを楽しめるなんて、なんともうらやましいと思った。

きちんと手入れされたMGBはいまでも、路上で見かけるもっとも美しいクルマの1台だから。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    役職:編集長
    50年にわたりクルマのテストと執筆に携わり、その半分以上の期間を、1895年創刊の世界最古の自動車専門誌AUTOCARの編集長として過ごしてきた。豪州でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、英国に移住してからもさまざまな媒体で活動。自身で創刊した自動車雑誌が出版社の目にとまり、AUTOCARと合流することに。コベントリー大学の客員教授や英国自動車博物館の理事も務める。クルマと自動車業界を愛してやまない。
  • 翻訳

    小島薫

    Kaoru Kojima

    ドイツ自動車メーカーの日本法人に在籍し、オーナーズマニュアルの制作を担当。その後フリーランスで翻訳をはじめる。クルマはハッチバックを10台以上乗り継ぎ、現在はクーペを楽しんでいる。趣味はピアノ。

クルマ漬けの毎日からの連載

連載をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

Google検索で『AUTOCAR JAPAN』の記事を見つけやすくする方法