メルセデスAMG GT 詳細データテスト 純粋さを欠く動力系とハンドリング 気になる高周波ノイズ

公開 : 2023.07.01 20:25  更新 : 2023.07.04 00:56

走り ★★★★★★★☆☆☆

843psのメルセデスAMGだ、スターターボタンを押せば、ドラマティックなサウンドを予想するだろう。ところが、最初は期待を裏切られる。合成された電気パルスが、ハイブリッドパワートレインの準備完了を告げ、デフォルトのモードでは、電力のみで静かに走り出す。走行モードをよりハードなほうへ変えると、V8はようやく吠えはじめる。

アファルターバッハが、このクルマで実現しようとした能力の幅は広大なものがある。走行モードは、コンフォートと電動モードのELにはじまり、対極にはスポーツ+やレース、ドリフトモードさえ用意したのだ。

全開にすれば間違いなく速いが、サウンドや、パワートレインの制御には不満が残る。AMGには、もっと気持ちよくエンジンが回るクルマもあるのだ。
全開にすれば間違いなく速いが、サウンドや、パワートレインの制御には不満が残る。AMGには、もっと気持ちよくエンジンが回るクルマもあるのだ。

たしかに、このGTの走りにおける多様性そのものは、野心的かつ印象的ではある。しかし、細部の煮詰めには妥協があると気付くのに、長い時間は要さない。

たとえば、低中速でのコンフォートモードは、ギアボックスからのスナッチや、低速域でのスロットルレスポンスにおける遅れを感じることがときどきある。スロットルペダルを踏む足に力を込めると、ハイブリッドシステムは力強く急激なブーストを効かせることもあるが、そうではないときもある。

また、リアに積まれた高電圧の電気系からは、高周波ノイズがかなり多く発生する。音量は低く断続的だが、それでもやはり気に触る。NVH担当のエンジニアなら、間違いなくサウンドではなくノイズと呼ぶ、高級GTであれば遮音すべき類の音だ。

スポーツかスポーツ+の各モードでは、少なくともAMGのスーパーセダンに期待する雷鳴のようなV8サウンドが、幾らか耳に届くようになる。しかしそうなっても、GTの内燃エンジンはサウンドに個性が満ちているとはいえない。

車外で聞くと、とくにグリルが閉じているときは、ほとんどベルトや冷却ファンの唸り、そしてターボの吸気音しか耳に入らない。ただし、クルマの背後に立てば、AMGご自慢のスポーツエキゾーストが、はるかに豊かな音を聞かせてくれるが。

パフォーマンスそのものは当然ながら、的を外すようなことはない。圧倒的だ。ゼロスタートでは、97km/hまでたったの2.9秒、161km/hにも6.6秒で到達する。ゼロヨンは10.9秒、変速ありでの48−113km/hはわずか2.5秒だ。2021年に、満点を獲得したBMW M5CSが打ち立てたベンチマークを、ほぼほぼ破ってみせたのだ。

全開加速では、獰猛さをむき出しにする。中回転域では力強く突進し、レスポンスにも優れる。そのまま6000rpmを超えるまで、そこそこよく回り続ける。とはいえ、パワーデリバリーにピーキーさこそないものの、かなりストレスのかかった内燃エンジンに走らされている感覚だ。AMGには、もっと活発で遮るものなく回るV8もある。

ただし、よりスポーティな走行モードを選んだ際に、そのドライバビリティのもっとも奇妙なクセは、電動リアアクスルによるブーストの半分くらいが、追い越し加速のために残されているように感じられる点だ。その残りのパワーは、キックダウンスイッチを押すくらいでないと使うことができない。

F1のトップドライバーが予選ラップを走るような気分を味わいたいなら、それもいいだろう。しかし、公道上では走りをわかりにくくするだけだ。サーキットでも、限界域でのドライビングを、必要以上に難しくしてしまう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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